第十五話「激戦」

船から下りてすぐに信長はアスカを連れてNERVの訓練所に向かった。信長やる気満万。さっそくアスカに体力テストをさせて、それが終わると、アスカに着替えをさせて空手を始めさせる。

アスカはいきなりたるい気もしたが、自分が評価されてる証拠とも取れるのでわるい気はしない。・・・しかし信長は強かった。足元にも及ばないアスカ。すぐにダウンしてしまう。

「くそ〜。歯が立たないわ」

その後もアスカは、信長が身につけていた、いくつかの格闘技につきあわされ、信長の怖さをますます知るのであった。確かにドイツでの訓練とは比べ物にならない。

むこうでは14歳の少女と言う事で、日頃厳しい人も、どこか同情的だった。もちろんそれなりにはキツイ訓練もやっていたが、ここまで徹底的に打ちのめされたのは始めてだった。

「よし、次はエヴァ弐号機のシンクロ実験だ。アスカ、プラグスーツに着替えて準備しとけ。」

「そ、そんな〜。うう、信長さんのいじわるぅ。」

アスカが体全体に疲労を感じながら、シンクロ実験が行なわれた。結果は57%・・・。まあ、アスカにとってはいつもどおりの数字といったところだろう。

射撃訓練時の動きも3パイロット中トップだ。体力データの各パイロットの差がよくわかるように書いてある折れ線グラフも届いたが、これも、文句なくアスカがトップだ。

信長の目がますます光ってくる。モニターを通じて、その目を見たアスカは、ぞ〜っと、背筋も凍るのであった。幸い今日の訓練はこれで終了だったが、明日は全身筋肉痛になっているのは間違いなかった。

同じ頃、司令室では加持がゲンドウに任務の報告をしていた。艦船の上で持ってたトランクを差し出す。厳重にキーロック式になっていた。

「いやはや、波瀾に満ちた船旅でしたよ。やはり、これのせいですかね。・・・すでに復元は完了しております。まちがいなく生きてますよ。」

トランクの中あったのは、箱状の透明なガラス。そこには何やら貝の化石のようなものがある。しかし、よく見ると、まるで人のような者が見える。

「最初の人間、アダム・・・、これこそ人類補完計画の要ですね。すべては碇司令のシナリオのままに。」

ゲンドウがうなずいて、一言いうと、加持は部屋を退出していった。ゲンドウ・加持双方の目には輝きがあった。加持が独身寮に戻ろうとすると信長が待ち伏せをしていた。

「よう、加持。待ってたぜ。どうした、あの艦船の中で大事そうに持っていたトランクは?・・・お前、ひょっとすると司令ともつながってるな?」

さすがにギクっとなる加持。もはや隠してもしょうがないと判断して居直った。

「ええ、そうです。トランクは司令に渡しました。・・・この際、信長さんにはすべて話してしまいましょう。俺はNERV、戦略自衛隊、ゼーレの3重スパイしてます。」

「俺も含めると4重ってわけか・・・。まったく呆れた男だ。ところで、ゼーレってのは何だ?以前一度だけ聞いたが。」

「裏でNERVの資金源になってる組織ですよ。この組織の詳しい事は不明なんですが、その組織”人類補完計画”と言う計画を立ててるそうです。・・・碇司令はそれを遂行するのが裏の任務のようです。」

「なるほど・・・。で、その人類補完計画ってのは?」

「人類を滅亡させる計画には間違いありません。これも詳しい事はわかりませんが・・・。」

「どういう事だ?世界征服を狙うっていうのなら分かるが、人類を滅亡って事は自分も死ぬって事じゃねぇか。」

「彼らに言わしてみれば、すべての人間を一つにして、究極の生物、”神”になるための計画だそうです。」

「はぁ〜、宗教がらみかよ〜。一番やっかいなやつだぜ。」

そう、この小説でも何度か言ったが、信長が一番恐れていた相手は本願寺という”宗教”だった。その長い戦いの中でも一番印象に残っているのは、1574年の長島一向一揆の事だ。

この戦い、すぐに、信長の勝ちは見えた。大砲などの最新兵器に敵は立ち向かうすべがなかったのである。信長は重臣を集め、ワインを飲みながら、勝利の前祝をやっていた。

「ふっふっ、カンパイ!この海の色、すべてをこの酒のように真っ赤に染めてみたいものよのう。」

この信長の発言には、戦国の世で平気で人殺しをしてきた重臣でさえ、ゾォ〜、とする思いであった。織田家臣で信長に表立って逆らえるものなど誰もいない。

「はははっ、まあ、やつらもそろそろ降伏しましょう。もう、水も食料も尽きている頃でしょうし。」

「ですが、殿は例え降伏しても決して許さず、飢え死にさせるのですか。」

滝川一益と、羽柴(豊臣)秀吉が、何とか穏健にすませられるよう、冷や汗たらしながら、遠まわしに降伏したら許すように進言する。

一揆軍は何と雑草すら手に入らず、土壁にすら手を出す悲惨な状況であった。

「いや、許してやれ。」

信長の意外な言葉に驚く一同。殿の機嫌が変わらぬうちに、素早くこの決断を褒め上げる秀吉。彼もかなり残酷な男だったが、信長にはとても及ばなかった。

「そして、一向一揆の連中がのこのこ出てきたところを皆殺しにするのだ。そうすれば、早くケリが着く。」

・・・もう信長が恐くて、何も反対できない武将達。この軍旗の3日後、ついに食料が完全に尽き餓死者が、全兵力の半分となった一揆側は降伏をしてきた。

この信長の策にはそれなりの理由もあった。ひとつ城(砦)を皆殺しにすれば、後は敵はおびえて、抵抗もせず、簡単に落とせるのである・・・しかしこれが裏目にでた。

降伏した一向一揆の小船が、信長軍の巨大な鉄鋼船の隙間を通りぬけようとすると、信長は裏切り、一揆軍に総攻撃をしかけた。

鉄砲によって、一揆軍はどんどん死んで言った。・・・しかしそれを見た他の一揆の連中は怒りに震え、裸のままで突撃してきたのだ。・・・今まで飢えでろくに歩く事すらできなかったのに。

「信長あ、よくも裏切ったな。お前を地獄に連れてってやる。」

信長は驚きながらも構わず、どんどん殺すよう、部下に徹底的に指示を出す。だが、殺しても、殺しても一揆軍はの信長向かって突撃して来る。

そこには、男達だけでなく、女や子供の姿まで混じっていた。全身傷だらけになり、目の光を失っても、ひたすら信長軍に突撃。よろよろ今にも倒れそうなのに、もの凄い力で信長軍の長槍を奪って、逆にそれで敵を突き刺す。

「信長様、申し上げます。織田信広(信長の異腹兄)様、討ち死にしました。」

完全に信長軍の勝利に思えていたこの戦いが、どんどん様子を逆転して行く。慌てて、三河の徳川家康に援軍を頼むが、どう見ても間に合わない。

「はははぁ、皆、戦って、死ねば極楽に行けるぞ。信長を殺すんじゃ。」

秀吉は、なんとか信長だけは守ろうと奮戦する。それだけ、状況は危険であった。

「撃てー、ひるむな。敵はもう飢え死に寸前なんじゃぞ。」

だが、死ぬば極楽に行けると信じきっていた一揆軍は、敵の鉄砲玉も気にせずに突っ込んでいく。・・・それに比べ死をおびえる信長軍は恐怖に震え上がるばかりだ。

そもそも信長軍の大半は金を使った雇い兵だ。大将首を狙っている一部のもの以外は、適当に戦い逃げて、うまい具合に、金を儲けるつもりなのだ。

農民を使わないこのシステムは、農期での進軍をストップさせる必要がなく、軍事訓練で鍛える事が出きると言った、利点も多いのだが、これも、今回はまったくの裏目である。

「殿。お逃げ下され〜。もはや、我々の負けでございます。」

いつも強気な柴田勝家の進言だっただけに、信長はもはや、一目散に逃げる。織田信成(信長の従兄弟)、織田信次(信長の叔父)まで、討ち死にしたとの情報が入ってくる。

「くそ〜。どうなっておるのじゃ。殺しても殺しても襲ってくる。」

信長は逃げるのは得意だった。・・・今まで信長はけっこう負けた経験も多いのだ。、とりあえず、逃げる事だけは何とかなりそうだ。

清洲に向かって、一目散。近くまで逃げ込めば、家康の援軍が来るはずだ。・・・強力な三河兵が援軍に来てくれれば、引き分けには持ち込める。

2時間ほど逃げると、もはや、周りに敵はおらず、清洲に脱出できるのは、確実に見えたのだが・・・。


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