第22話「勝算」

シンジが92%と言う脅威的なシンクロ率で第10使徒を倒した3日後、エヴァパイロット全員の一斉シンクロ率実験が始まった。…当然,注目は初号機のシンクロ率である。信長は独り言のようにつぶやく。

「…さて、シンジのシンクロ率が見物だな」

「そうだわね。…あのシンクロ率92%は奇跡なのか、それともマグレなのか?」

…このリツコの言葉はまさにNERV本部全体の注目しているところを代表して言っているものだった。…あれがもし、マグレでなければ使徒に簡単に負けるような事はまずないであろう。

「接続神経正常。初期コンタクトも以上無し。…シンクロ実験開始します」

マヤの報告でシンクロ実験が開始される。モニターに示されたシンジのシンクロ数値は、『65%』と表示れていた。…やはり先の戦いの92%はまぐれだったのかと思う、NERV職員一同。

(まぐれだったのか。…まあ、あのシンクロ率が実力だったら俺も今後、指揮するのが楽だったんだが。)

…だが、それでもシンジのシンクロ率65%はついにアスカも抜き、エヴァパイロット3人の中で一番高い数値になった。これは、大きな収穫だ。

「まあ、今までで、この前の使徒戦を除けば一番いい数値なんだから、素直に喜びましょう、リツコ」

「そうね…ミサト。……シンクロ率は一時的な感情でガラッと変わってしまうし」

…シンジが珍しく自分からシンクロ率の結果を聞いていた。…普段はどんな成績でもさほど気にしていないようなのだが。

「どうでした、ミサトさん。今日のシンクロテストの結果は?」

「は〜い、あ〜ゆ〜、NO1」

シンジはこれまた珍しく大喜び。…人一倍エヴァのエースパイロットとしての誇りを持つアスカは、その様子をエントリープラグの中で苦々しく見ている。

「参っちゃったわね〜。強い、強い、強過ぎる。無敵のシンジ様」

無論、アスカは本気でこんなことを言っているわけではない。…ただ悔しまぎれで演技して出した言葉だ。…レイは相変わらずでまったく他のパイロットの事は気になっていなかったようだ。

(…シンジがアスカを抜いた、まずいなこれは。…加持によるとアスカは幼い頃のトラウマでEVAの操縦はNO1でないとダメだと思い続けていて…それが崩れると精神的に大ダメージが来る可能性があるらしいからな)

その日のシンクロ実験から1週間後、スーパーコンピューターMAGIを乗っ取った第11使徒が攻めて来るもリツコを中心にNERVは無事殲滅。…コンピューターは素人の信長はこの戦いにはまったく関係がなかった…。

…そしてさらにその1週間後、第12使徒が攻めて来た。2週間の間に3回行なわれていたシンクロ実験はいずれもシンジがトップ。…アスカが夜、隠れて泣いている姿を濃は見ていた。

「信長さん。パターンオレンジの謎の物体が現れました。新種の使徒でしょうか?」

「…使徒に間違いないだろう。あんな奇妙なやつは他にいねぇ。第10使徒戦はさんざんだったから、今日はいいを見せてやるぜ。総員第一種を発令しろ!」

パターン青では無く、オレンジと言う謎の球形の使徒が現れた。…さっそく付近の住民の避難をすませ、EVAの起動も準備。当然パイロットも呼び出し、シンジ達はエントリープラグの中で作戦会議を行なう事となった。

「残念ながら使徒の事はまったくわかっていない状態だ。…そこで一機を先行させて偵察を行なおうと思う」

「は〜い、信長さん。先鋒はシンジ君がいいと思います」

…いつもなら、こんな事を言うアスカではない。やはり最近、エヴァパイロットとしてシンジばかりが注目され、自分がないがしろにされているのですねているのか?…と、思う信長。

「はぁ?」

…シンジも、いつもと違うアスカに少し驚いている様子だ。

「そりゃ、もうこういう仕事は、エヴァパイロットNO1の実績を誇る碇シンジ様に任せておけば、間違いないでしょう」

アスカの悪ふざけにシンジは相当ムッとしている様子だ。…キレた。…いつもの彼からは信じられないような言葉が飛び出す。

「…お手本を見せてやるよアスカ」

「な、なんですって!」

シンジがこれほど激しい反抗するとは思わなかったので内心、びびるアスカ。…ミサトも二人が勝手に作戦を決めてしまっているので慌てて口を挟む。

「ちょっ、ちょっとあんた達」

モニター画面のシンジが反抗する。

「言ったでしょう。ミサトさん。あ〜ゆ〜NO1って」

ミサトが望んでいたのは増長では無く…自信だ。…この前のよかれと思って言った一言が完全に裏目に出てしまったようだ。ミサトはシンジが完全に図に乗ってしまっていると思った。

「戦いは男の仕事!」

ガッツポーズを取るシンジ。・・リツコも呆れかえった様子だ。

「前時代的〜ッ。…弐号機バックアップに回ります」

「零号機も同じくバック…」

…信長は我慢の限界に来た。レイがバックアップに行くと言いかけた途中で口を挟み、厳しく命令する。

「アスカ、シンジ…おまえら作戦終了後、1週間独房にぶち込む!…レイ、おまえが前方で偵察をしろ」

「…了解しました。佐藤作戦部長」

さすがは信長。…シンジもアスカもさすがに反省した様子でエヴァ全機出撃。前方はレイになるはず…だったのだが。…エレベーターでエヴァが地上に出るやいなや、シンジがまた、いつもの彼からは信じられない行動に出た。

「…な!!」

「キャァーーーーー」

…なんとシンジがレイの乗っている零号機の頭を素手でふっとばしたのだ。…いつも大人しいシンジのあまりに信じがたい出来事に、発令所の職員全員が呆然となった。

…信長もしばらく呆然としていたが、ようやくシンジを止めなければいけないと気がついた。慌ててアスカに指示を出す。

「アスカ、シンジを止めろ!」

…アスカはその信長の言葉にハッとなりシンジを止めようとしたが時すでに遅し。暴走したシンジは使徒につっこみ不気味な影にこの世から少しづつ消されて行く。

「くそっ、いったいどうなってるんだ……た、助けてよアスカ、綾波」

先ほど、零号機を自分で動けなくしてしまった事も忘れているのか?…シンジは完全に錯乱した様子で助けを求める。…もはやどうみても救出は間に合わない。

「バカ!…自業自得よ。…まにあわないわ」

「そんな、アスカ。助けてよアスカ。・・・ギャアーーーーーー」

シンジが使徒が作り出した謎の空間へ完全に吸い込まれて行った。その様子を呆然と見る他ない、信長達。

「…やむを得ん。撤退するぞ、アスカ」

とにかくあの謎の空間の秘密をリツコ当たりに、解明してもらわないとアスカも二の舞だと思った信長は弐号機を一時撤退させた。…弐号機の撤退が完了すると忙しい周りをよそに信長はトイレに行くのだった。

信長はトイレで小便をする。…すこし心が落ち着いた。…そうすると一つおかしな事に気がついた。

(…こうやって落ち着いてみると、シンジの行動は第10使徒戦と同じじゃないか。…あの時も俺の作戦を無視して、地上に落下してくる使徒にまったくスタートダッシュを切らなかった。…だが結果的にそれが功をそうし使徒は無事殲滅。)

(…今回も非常識な行動をしている点は一致していやがる。……ま、まさかシンジのやつはわざとあんな行動を?シンジには勝算があって使徒の影に飲み込まれたのか?)

「あっ信長さん。…こんな時に一直線にトイレに駆け込みますか普通?」

…加持だ。信長に次ぎの作戦があるか気になって様子を見に来たのだろう。

「それはお前もだろ。……シンジはわざとあの謎の空間へ吸いこまれたかもしれん」

「えっ!」

「今日のシンジのおかしな行動…これなら説明つかねぇか?」

「言われてみれば…そうですね」

…信長が戻った後発令所ではシンジの救出会議が行なわれた。…リツコによるとあの謎の空間は虚無空間と言うものらしい。…信長にとってさっぱりわけのわからない言葉だった。

初号機が虚無空間に取りこまれた12時間後。…エヴァの強制サルベージ作戦が行なわれる事になった。…それは現存するすべてのN2爆弾を使い初号機を回収すると言う無茶苦茶なものだった。

(シンジ…やはり、お前には勝算があるのか?)

「爆雷投下60秒前…」

パシィッッーーー、突然町全体を包む影に亀裂が走った。…いったい何事かとNERV職員は呆然としている。

「よし、勝った!…やっぱりあいつには勝算があったんだな。サルベージ作戦中止だ」

…信長が確信した通り、使徒は虚無空間から出てきた初号機に殲滅され、碇シンジもまた無事救出されたのである。…信長はシンジが零号機を倒したのは使徒の精神攻撃の影響であり、罪を問わないよう厳命したのであった。

もちろんこの精神攻撃には、信長が碇司令に戦略自衛隊の機密情報を土産に取り引きをして作った嘘であった。


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