そこは広い空間だった。

部屋全体が薄暗く、天井にセフィロトの樹と呼ばれる神々の系譜が記されている。

そのど真ん中に1つの机が置いてあった。

その部屋の中で、3人の人間が話をしている。

1人が碇ゲンドウ。

1人が冬月コウゾウ。

そしてもう1人が赤木リツコである。

 

「・・・・・・定界珠?」

手元においてある報告書に目を通しつつ、ゲンドウが口を開いた。

「ハイ。サードチルドレンの所持している宝貝です。

 詳しい能力ははっきりとは調べてませんが、物体に干渉してその性質、

 形態を自由自在に変化させる物のようです。

 私のお肌もピチピチにしてくれました♪」

やけに嬉しそうなノリで報告するリツコに、ゲンドウは一瞬表情を凍らせる。

威厳を出す為かリツコの意外な一面を見た為かは定かではないが。

「・・・・・・太公望と名乗る男の素性は調べたか?」

「ハイ。しかし、その正体は判明しませんでした。どうやら本当に3千年前の人間のようです。」

真顔で言うリツコに、コウゾウがまさかと言うような表情で口を開く。

「どうも信じられないな・・・・・・・・宝貝に関しては良いとしよう。

 しかし、太公望に関してはこれといった証拠は無いだろう?」

「それはそうですが・・・・・・・・・信憑性はあるかと存じます。」

「しかしだね・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・打神鞭と太極図だ。」

 

「・・・・・・・は?」

重々しくキーワードを口にするゲンドウに、リツコは思わず声を上げる。

「太公望の所持している宝貝だそうだ。

 我々はその二つを認識する術は無いが、SEELEが渡した報告書や映像を見てその単語を口にした。

 ほかにも伏羲がどうとか新仙界がどうとか言っていたが私には理解できなかった。

 しかし、どうやらSEELEは仙道の存在と太公望の存在については以前から知っていたようだ。

 ・・・・・・・シナリオの建て直しに関しては、我々もそれについて知識を持たなければならない。

 出なければSEELEに良いように動かされるだけだ。」

「・・・・・・・・・とりあえず、あの二人はウソを言ってはいないと?」

「私はそう考える。ともかく、サードチルドレンおよび太公望から情報を引き出さなければならない。」

リツコは顎に手を当ててしばし俯いた。そして、苦渋に満ちた表情で顔を上げる。

「・・・・・・・・それは無理だと思います・・・・・・・・・

 おそらくサードチルドレンと太公望はすぐさま元いた所に戻ろうとするでしょう。」

「・・・・・・・・・なぜかね?」

リツコのゲンドウにコウゾウが眉をひそめながら問い掛ける。

リツコは首を横に振って溜息と共に口を開いた。

 

「・・・・・・・・・・仙桃が、切れましたから・・・・・・・・・・・」

 


仙界伝封神演義異聞奇譚
来視命縛幻想記

第六回 ミサト、三途の川の向こうに


 

「え!? ちょ、ちょっと、もう一度言ってくれる?」

ミサトが突然声を上げる。

その話し相手であるシンジは肩をすくめ、溜息をつきながら口を開いた。

「人の話はちゃんと聞きましょうよ・・・・・・帰るって言ったんですよ、もといた山にね。」

やれやれと言った感じで話すシンジの台詞にミサトはしこたま慌てた。

そりゃそうだ。現時点で行動可能なパイロットがいなくなるという事になるのだから。

「ちょっと待ってくれない? 今帰られたらこちらとしても困るのよ。」

「? 何故です? 使徒はもう倒したし、簡単な検査もすでに受けたし、

 もうやる事なんてありませんけどねぇ?」

あくびをしながらダルそうに答えるシンジ。

「使徒はこれからも来るのよ。だからEVAに乗ってもらわないと困るの。」

「んなもん無視です。」

「・・・・・・・・・・・・は?」

きっぱりと即答するシンジにミサトは絶句した。

「使徒は貴方たちで処理してください。僕と師父は帰って気ままに暮らしてますから。」

「それができれば苦労はしないのよ!! 使徒はEVAでしか倒せない。

 今動けるEVAはシンジ君が乗れる初号機だけなの!!」

身振り手振りで必死に現在の状況を伝えるミサトにたいして、シンジは不思議そうに小首をかしげた。

「何で・・・・・・EVAでしか倒せないんです?」

「それは・・・・!!?」

ATフィールドがあるからよ!! と言いかけてミサトは思わず口を紡ぐ。

今回の第三使徒戦・・・・・・初号機はATフィールドを使用せずに勝利を収めたのだ。

・・・・・・・・はたして、本当にEVAでなくては使徒は倒せないのだろうか?

ミサト自身もちょっぴり疑問に思い始めたのだ。

そんなミサトに、シンジは追い討ちをかけた。

「わざわざあんな高そうな兵器使用しなくても、使徒は倒せると思いますよ?

 N2の爆発にも耐えましたけど、それでも活動停止まで追い込んだじゃないですか。

 超高出力一点突破兵器でもあれば、楽に倒せると思います。

 たとえばエネルギー砲とか、ビームライフルとか・・・・・・

 あ、マスドライバーでヤリか何かを打ち出すのもアリですねぇ。

 科学力が何処まで進んでいるか知りませんけど、少なくともマスドライバーは作れるでしょう?」

ケラケラ笑いながら使徒を倒せそうな平気を口に出すシンジ。

「そうかもしれないけど・・・・・・・準備している間に使徒が来るかも知れないでしょ?

 衣食住の保証はするからさぁ、もうチョイここに居てくれないかしら?」

おねがいっ!! っと、顔の前で手をあわせるミサトに、シンジはジト目をしながら口を開く。

 

「・・・・・・・・・・・仙桃。」

 

「・・・・・・・ハイ?」

「仙桃、用意できるんですか?」

「いや・・・・・それは・・・・・・その・・・・・・」

「僕は毎日山菜の天ぷらとかをつまみにして仙桃で晩酌するのがささやかな楽しみなのです。

 おまけに今年は仙桃が大豊作だったのです。

 百年に一度、実るか実らないかという幻の『豊満(ほうまん)』クラスの仙桃が樹一杯に実ったのです。

 大きいので懐に入らず持ってくるのを断念しましたが、

 少なくとも今日持ってきたやつの数倍美味な仙桃なのです。

 それを放っておいて、ここにとどまれと言うのですか?」

聞いているうちに口からよだれが出てきたミサト。

是非ともその『豊満』クラスの仙桃にありつきたいという誘惑に襲われた。

もし、自分がシンジの立場だったら、自分はここにとどまるだろうか?

・・・・・・・・・否、速攻で帰るだろう。何よりも仙桃の安否が心配である。

しかし、NERVに勤める者としてどうしてもシンジを返す訳には行かない。

「使徒を倒さないと人類が滅亡してしまうのよ。もちろん、シンジ君だって死んでしまうわ。

 命と仙桃、どっちが大切なの?」

「当然仙桃です。命は二の次なのです。」

はたまたキッパリと即答するシンジ。その表情には一点の迷いも無かった。

心の底から本気である。

「・・・・・・・それじゃあ、NERVに仙桃の樹を移すか、作るかする訳には行かない?」

「無理です。仙桃の樹はデリケートなので移す事は出来ません。

 作るにしても、あの樹を作るのに2年の月日を要しました。

 葛城さん・・・・・・・・・2年間禁酒できますか?」

「・・・・・・・・・・・・無理。2年間えびちゅが、おちゃけが飲めないなんて私は耐えられないわ。

 そうだ、シンジ君もえびちゅとか飲んでガマンしない?」

我ながら良い案だと思いながら交渉するが、シンジはイヤイヤと首を横に振る。

「あんな苦いの、人間の飲み物じゃありません。毒性や依存性もあるし、僕は仙桃じゃなければヤです。」

「あうぅ・・・えびちゅも美味しいのに・・・・・・それじゃあ、せめてここまで通勤してくれないかしら?

 交通費とかは出ると思うからさぁ・・・・・・・・・・」

「メンドクサイからヤです。」

またまたキッパリと即答するシンジにミサトはこめかみを抑えた。

おそらくこうなったらテコでも動くまい。ヘタに強要して顔のしわを増やされたらたまらない。

ミサトはシンジをここにとどめる術を全て使い切った。

 

 

「おお、シンジ、こんな所に居たのか。入り口で待ってたんだが来ないから探したぞ?」

ふいにシンジたちの背後から声が掛かる。その声の主は太公望その人だった。

「ああ、スイマセン、師父。ミサトさんに、ここにとどまって欲しいって引き止められたものですから。」

「? おぬしはとどまるつもりなのか?」

「まさか。あの仙桃放っておいてまでここにとどまるメリットなんか存在しませんよ。

 すぐに帰りましょう。でないと日が暮れてしまいます。」

そう言いながら自分の腕時計を見るシンジ。すでにその時計の針は17:00を回っていた。

「ああ、もう一回考え直してシンジ君。」

「くどいですね。そんなに顔のしわ増やして欲しいですか?」

「うっ・・・・・・」

定界珠を取り出して目の前で掲げて見せるシンジにミサトは絶句する。

 

「ピンポンパンポン。サードチルドレンおよびその保護者は、速やかに司令室まで出頭して下さい。

 繰り返します。サードチルドレンおよびその保護者は、速やかに司令室まで出頭して下さい・・・・・・・・」

 

突然廊下に響き渡るアナウンス。

それにシンジと太公望はお互いに顔を合わせる。

「サードチルドレン・・・・・・・? そう言えばリツコさんがそんな事言ってましたよね? 僕の事。」

「その保護者・・・・・・・わしの事か? ・・・・・・・ふむ。どうしたものかのう。」

「別に帰っちゃっても文句言えないでしょう。

 そもそも僕はサードチルドレンなんて怪しげな物になった覚えは無いですし。

 出頭なんて僕たちが悪い事したような言い様ですし。」

シンジがそう言って入り口へと足を向けた。

 

「ピンポンパンポン。碇シンジ様および呂望様。碇総司令がお呼びです。

 至急、司令室までお越し下さい。繰り返します・・・・・・・・・」

 

ちょっと焦ったような声で再びアナウンスが流れる。

シンジと太公望は、そのアナウンスに深く溜息をついた。

「・・・・・・・・会話、バッチリ聞かれてるみたいですね。」

「・・・・・・・・・・仕方ないのう・・・・・・・・・行ってみるか。

 でもここに居る葛城一尉は方向音痴ゆえ道案内には不向きだのう。

 わしらとしてもNERVの中をさ迷うのはゴメンだ。

 ・・・・・・・もうちょっとちゃんとした道案内が欲しいのう・・・・」

太公望が、まるで誰かに言い聞かせるように大声で呟いた。

それに言葉に対して当然ミサトがムッとする。

「ちょっと!! 確かにここに来る時は迷ったけどそれは酷いんじゃ・・・・・・・・・」

 

「ピンポンパンポン。赤木リツコ博士。赤木リツコ博士。

 大至急葛城ミサト一尉までお越しください。繰り返します・・・・・・・・」

 

かんぱついれずに響くアナウンス。

「ちょっとぉ!! 一体なんだってのよぉ!! 私の扱いって一体何なのよぉ!!!」

ミサトが天井に張り付いている監視カメラ兼記録マイクに向かって絶叫を上げた。

 

「ピンポンパンポン。葛城一尉、施設内ではお静かにお願いします。くりかえします・・・・・・」

 

「人おちょくんのもいいかげんにせいや !! おお!!?

 しばくぞ!! しばくぞコラ!! けんか売ってんのかテメェ!!

 上等だぁ!! 出て来い放送係員んんん!!!」

ついにキれて天井に中指を立て「ファックユー」ポーズをするミサト。

こめかみにはいくつもの青筋が浮かび、もはやその人格は変貌していた。

 

「いつものミサトさんじゃな〜い。」

「・・・・・・・なんだ? それは。」

「何時もと違う人に言う台詞です。その方がウサギのお人形を殴っていればなお可、です。」

「定界珠でウサギの人形でも出してやったらどうだ?」

「わお!! それはぐっどあいであ!!」

 

 

・・・・・・・・リツコが放送で呼び出されてミサトの所へ来た時には、

ボロボロになったウサギ人形に対しマウントポジションを取って

シンジの作り出したパイプ椅子でガスガス殴り続けているミサトを見て

「おおっと、これはキツイ!! 顔面滅多打ちだぁ!!

 この凄惨な光景でも、れふり〜は未だ黙って観覧している!!」

などと定界珠でマイクを作ってプロレスの実況のように喋っているシンジと

それを面白そうに見下ろす太公望と、何事かと覗き込む野次馬たちが、

飛び散った綿の上で歓声を響かせていると言うとんでもない光景が広がっていた。

ちなみに、ミサトの周りはきちっとロープで囲まれていて

間接なリングが出来上がっている事は言うまでも無い。

 

「・・・・・・・・・こいつわ・・・・・・・・(怒)」

 

肩をプルプルと震わせて、リツコがリング中央へと歩み寄る。

そしてミサトおしおきタイムが始まった。

 

・・・・・・・ここからは実況碇シンジでお楽しみください。

 

 

「おお〜っと! ここで金髪で白衣を着た謎のお姉さんが乱入だぁ!!

 巨乳レスラーの頭をむんずと掴み上げ・・・・・・・これは凄い!!

 喉仏にメガトンチョップの嵐!!

 これではまだ収まらない!! 巨乳レスラーを天高々と抱え上げ・・・・・・・・

 決まったああ!! 垂直落下のブレンバスター!!

 固い床に脳天激突!!

 巨乳レスラー、これはきつい!! 赤い泡を吹いて痙攣している!!

 しかし残虐非道、金髪お姉さんがさらに追い討ち!!

 ロープを登って巨乳レスラーに背を向ける!

 そのまま天高く飛び上がり、きらめくからだが心身で回転しながら弧を描く!!

 これは・・・・・・まさか・・・・・・!!?

 出たぁ〜!! 伝家の宝刀ムーンサルトプレスだああ!!!

 そのままフォール・・・・・・・・じゃない!!

 懐からドドメ色の液体の入った注射器を取り出した!!

 これはまさかBC兵器か!!? れふり〜、止めずに沈黙している!

 それを横目で見ながら金髪お姉さんが巨乳レスラーの腕をまくって深々と注射!

 その色からして怪しげな液体が巨乳レスラーの身体へと注ぎ込まれてゆく!!

 ああ〜っと!!? これは凄い!!

 巨乳レスラーの耳からピンク色の物体が勢い良く噴出してきたああ!!

 巨乳レスラー沈黙!! 巨乳レスラーVSウサちゃん人形戦無制限一本勝負は

 謎の乱入者、金髪お姉さんの勝利となりました!!」

 

ぽんぽんと手をはたいて血に染まった白衣をまとったまま天高く右腕を突き出すリツコ。

そして野次馬の歓声が響き渡った。

中には「葛城さぁあああん!!」だとか、

「センパイ、ステキですぅ!!」だとか、

「オイ!! 誰か救護班・・・・・・・いや、霊柩車だ!!」だとか言う声が混じっている。

ちなみに、此度の戦いはMAGIを通してしっかりと記録され、NERVの伝説として語り継がれる事となる。

 

・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

・・・・・

 

「申し訳ありません。私の勝手な判断で葛城一尉を大破させてしまいました。」

「問題ない。全て見せてもらった。・・・・・・・・良くやったな。」

リツコの報告に何時ものポーズでニヤリと笑うゲンドウ。

ミサトよ、所詮お前はその程度の人物だったようだ。

「所で、僕たちを呼んだわけというのは?」

後ろに控えていたシンジが口を開いた。太公望もうんうんと頷いている。

ゲンドウは口をニヤ〜と歪ませて声低く威厳たっぷりに言い放った。

「これからもEVAに乗れ、仙道の情報を教えろ、太公望は作戦部長補佐になってもらう。」

「「ヤダ。」」

単刀直入に言い放つゲンドウに、シンジたちはユニゾンして拒否の意を示した。

「衣食住の保証、多額の給料の贈与、仙桃の樹とやらの世話、仙桃の配達もしてやろう。

 その他多少の我侭も聞いてやる。だから大人しく言う事を聞け。」

それを聞いてシンジと太公望の表情が変わる。

「う〜ん・・・・・・・それなら別にいいかも・・・・・・・」

「情報に関してはそちらの情報と交換という事なら手を打ってもいい。」

「その他いろいろはまた後日に交渉の上決めるという事なら。」

「「その話、乗った!」」

太公望とシンジの声がユニゾンする。

・・・・・・・・・・碇ゲンドウ、口は悪いが結構な交渉上手だったようだ。

「交渉成立だ。・・・・・・・・・・・所で1つ頼みがある。個人的にな。」

ゲンドウが口元を歪ませた。

 

「仙桃・・・・・・・・私にも1つもらえないか?」

 

その申し出は当然のごとく却下された。

 


 

今回の執筆時間は3日です。

うーん・・・・・・もうちょっと頑張らなくてはなりませんね。

量も限りなく少ないです。多分今までで一番少ないです・・・・・・多分。

・・・・どうもスイマセン。まだ本調子ではないようです。

ああ、こうしているうちに話のテンポがどんどん遅れてゆく・・・・・・・・要領悪いですね。僕って。

質より数で時間稼ぎ。次回はもうチョッチ長くかけるように頑張ります。

それでは意見感想お待ちしております。

以上、アンギルでした。


 

うむ、仙桃さえあれば、他はどうでもいいんですねシンジ君は。

今まで、エヴァに乗るのを極端に拒否する小説はたくさんありましたが、『酒のため』と言うのは・・・。

ところでこの話しでのゼーレのシナリオとは一体!?

最強状態になっているシンジ&太公望に対して以前から策があったのか?

・・・しかし、結局その計画もギャクになってしまうかもしれないな。

さて、続きが気になる方はアンギルさんの作品に感想メールを!

アンギルさんの作品はご自身のホームページであるWing of Seraphimで読めます。

遅れましたが10万ヒット(…もう11万超えてるけど)おめでとうございます。(2001/1/03)

 


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