テクテクテクテク・・・・・・・・

 

NERVの広い静かな廊下を、太公望とシンジが並んで歩いていく。

100%人工物質で出来ているこの廊下は誰がどう見ても

現在よりもう少し進んだ近未来的情景を思い浮かばせる。

特に長い事山奥の小屋で自給自足の生活を細々送っていたシンジと太公望は

都会にもないNERVの設備には驚く事がいっぱいだった。

頑丈そうな自動ドアや消防法に引っかかりそうなほどやたら長いエレベーター。

誰が掃除しているのかは知らないがそれなりに磨きこまれている清潔な床に、

無駄に広い廊下のスペース。

気分的には21世紀へ始めていったのび○君と言う所か。

周りをきょろきょろしながら、二人は並んで歩いていた。

 

テクテクテクテク・・・・・・・・

 

「しっかし・・・・・広いですねぇ・・・・・・」

「確かにのう・・・・・・・なんか無駄に金がかかってそうだ。」

「そうですよねぇ・・・・・・・・でも、やっぱり僕はこう言う近未来的な風景より、

 天然溢れる山奥の方が落ち着きます。」

「うむ。なんと言うか・・・・・ココは暖かさが感じられぬからのう。

 やはり木々の匂いに包まれ、太陽の光を浴びて、

 流るる川のせせらぎを感じながらぬくぬく暮らしていた方が性に合うのう・・・・・・」

「詩人ですねぇ・・・・・・・」

「仙界は絶景だったからのう。

 不老不死の仙人達は、その絶景を見て仙桃を食べながら

 詩や歌の一つでも書いて余暇を楽しむのが主流だったのだよ。」

「へぇ・・・・・そう言えば、僕が持っている封神演義(全三巻)にもそんなシーンがありましたね。

 白鶴童子(はくつるどうじ)って人が崑崙山から見える絶景を霊穴(れいけつ)に立ちながら歌ってました。」

「白鶴・・・・・・・あやつが・・・・・・・・見た事がないのう。」

「・・・・・まあ、記録と言うのは何時の物でもあやふやですしね。

 そう言えば、師父は結婚しているって説があるんですけど本当ですか?」

「・・・・・・・・・マジで?」

「ええ。シチュエーションは知り合いの金持ちの所へ顔を見せに行った師父が、

 その知り合いの進めでなし崩しに結婚されちゃうんです。」

「完璧なデマだよ、それは。

 ただ・・・・・・・戦闘の際に相手に色目を使ったら

 ヘンな誤解をされて懐かれてしまった女はいたがのう・・・・・・・・」

「へエ? その人の名前、聞いていいですか?」

「ビーナス・・・・・・・じゃなくて、ええと確か本名は・・・・・・・・雲霄(うんしょう)、だったかな?」

「それって、趙公明(ちょうこうめい)の妹の事ですか!?」

「ほう、あやつらも有名なのか・・・・・・・」

「有名ですよ!! 金鰲島(きんごうとう)の三仙枯(さんせんこ)と言ったら、

 道行も深く、大変な美女だと言うじゃないですか。

 師父も淡白そうな顔して結構やるんですねぇ、コノコノォ♪」

「・・・・・・・・フッ、知らぬが仏か・・・・・・・・」

「? 何です?」

「何でもないよ。時にシンジ。」

「ハイ、なんでしょう?」

 

テクテクテクテク・・・・・・・・・ピタッ。

 

「・・・・・・・・・おぬし、迷ったな?」

「・・・・・・・・・ごめんなさぁい・・・・・・・・・」

 


仙界伝封神演義異聞奇譚
来視命縛幻想記

第七回 シンジのマルヒアイテム


 

「ほら、向こうにL字の分岐点ありますよね?

 んでもってこっちに左にカーブした通路、その奥にエレベーターですよね?

 それでこの道を左に曲がればD−317って書かれたブロックの表紙が・・・・・・・」

 

指を指して道を確認しながらテクテク歩いて行くシンジと太公望。

しかし、その先にあったのはD−101と書かれたブロックが。

 

「・・・・・・・アレレ? えっと、こっちの方に十字路があって、

 右に行くと自販機が二つ置いてあった喫煙所がありましたよねぇ?

 で、この十字路を曲がらずに進むと地上の出口へ直通するエレベーター、ありましたよねぇ?」

 

テクテクテクテク・・・・・・・・・・・ピタッ。

 

「・・・・・・・T字の分岐点があるのう・・・・・・・・」

「え? え? えっと、電光掲示板があるブロックがあそこにあって、

 それでこっち側にはD−121のブロックですよね?

 それで、向こうに進めばB−032ブロックへ続く通路でしたよねぇ?」

「そう・・・・・・・・だと思うが・・・・・・・・」

 

テクテクテクテク・・・・・・・・・・

 

頭を捻りながら歩く二人の鼻腔に、

どこかで感じたことのあるアルコールっぽい匂いが漂ってくる。

 

「・・・・・・・・? 消毒液・・・・・・か?」

「って事は・・・・・・・・Cブロックの病棟です・・・・・・・・か?」

「・・・・・・・・・・解らぬ。ここは一体何処なのだ?」

「あれれぇ? 確かに電光掲示板右で、T字路左で、直通エレベータ向かって歩いてましたよねぇ?」

「・・・・・・・その筈だがのう。」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 

「「・・・・・・・・・・本格的に迷った・・・・・・・・・・・」」

 

二人の脳裏にあるのは、葛城ミサトへの謝罪かもしれない。

「どうします?」

「もう一度、元来た道を全て戻ってみるしかないかのう・・・・・・・・・」

うーんと頭を捻って記憶の中身をむさぼってみる。

「何処まで覚えてる?」

「司令室の角二つくらいですかね・・・・・・・・」

「わしはケイジ手前までしか自信がない・・・・・・・・・・・」

元々道と言うのは何かの目印を見つけて覚えるものだ。

同じような通路ばかりのNERVでそれだけ出来ればたいしたものだろう。

 

「あら、どうしたの? 二人とも?」

 

完璧に頭を抱え始めた二人の前に、1人の天使が舞い降りた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・

 

「いやぁ〜、ホントに助かりましたよ、リツコさん。

 ここって同じような通路・・・・・・・って言うか、まったく同じ外見の通路ばかりだったもので・・・・・・」

恥ずかしそうに頭をぽりぽり掻きながらシンジが頬を赤らめる。

「ここは対侵入者対策の為にわざと入り組んだ道になっているから。

 うかつに歩き回ると富士の樹海のように完璧に迷ってしまうの。

 だから慣れている人間でも、何時もここの地図を持っておくのが常識なのよ。」

そう言いながらひらひらと地図を二人に見せるリツコ。

「・・・・・・・・タチの悪い迷路だのう・・・・・・・・・ミノタウロスの地下迷宮を思い出す。」

「そうなる事が目的なのよ、太公望さん。

 最も、ここは広いから抜け出すには毛糸の玉一つじゃ間に合わないけど。

 そうそう、指令から二人のIDカードとファイルを預かってるわ。地図もそのファイルに入っているから。」

白衣の中からどう見てもポケットより大きいファイルが二つ、

IDカードと一緒に取り出される。

「「・・・・・・・・四次元ポケット?」」

思わずユニゾンしてしまう太公望&シンジ。

「・・・・・・・何?」

「い、いえ、なんでもないです。・・・・・・・・時に、リツコさんは何故こんな所に?

 ここ、病棟ですよねぇ? ひょっとして、僕達を迎えに来てくれたんですか?」

IDカードとファイルを受け取りながら、シンジがリツコに問い掛ける。

「まあ、それもあるわね。

 二人はまだこれから住む住所を教えてないでしょう? 色々連絡事項もあるし。

 後は、お見舞いね。」

「・・・・・・・お見舞い? 身内が入院でもしておるのか? ・・・・・っと、失礼。」

自分の発現がリツコのプライバシーに踏み込むものだと気付き、口を閉ざす太公望。

リツコはそれにクスッと苦笑すると、軽く首を振った。

「別に構わないわ。・・・・・・・ここに入院しているのは、ファーストチルドレンである綾波レイよ。」

「・・・・・・・・ファースト?」

リツコのファーストチルドレンと言う発言に反応するシンジ。

「確か僕がサードでしたね? ・・・・・・すると、その子もEVAのパイロットですか。

 そう言えば、僕があのナイフが刺さると樽から飛び上がる、

 某パーティーゲームに出てくる人相の悪い黒髭にクリソツなクリーチャーが、

 僕と血が繋がっていると言う大宇宙の神秘にも似た衝撃な現実を突きつけられて落ち込んでいる時に

 レイがどうのとか零号機がどうのとか言ってましたっけ、確か。」

どう突っ込めば良いのか別の意味で迷ってしまう台詞をはきながら顎に手を当てているシンジ。

・・・・・・・・・確かに、あの手の顔はナイフを刺したら飛び上がりそうだ。

「・・・・・・・・・まあ、そんな所よ。

 半年くらい前の零号機起動実験で事故があって、現在入院中なのよ。

 ちなみに、セカンドチルドレンはきっと今ごろドイツですやすや眠ってるわ。時差があるから。」

・・・・・・ゲンドウに対してのシンジの比喩を否定するつもりはないらしい。

 

「所で、住所の方なんだが・・・・・・・・こちらから条件を要求しても良いかのう?」

話題を切り替え、先ほどから二人が気になっていた住所に付いての心配を出す太公望。

リツコはそれを聞いて、何かを考えるように2〜3秒ほど顎に手を当ててみる。

「ある程度なら、融通は聞くわよ。まあ、条件次第ですぐにと言うのは無理だけれど。」

「木々の匂いに包まれ、太陽の光を浴びて、

 流るる川のせせらぎを感じながらぬくぬく暮らせる場所が良いです。」

シンジは先ほどの太公望の台詞を引用する。

「・・・・・・・用は、貴方たちが済んでいた所に環境が近い場所が良いって事かしら?」

大きく頷く二人。

「・・・・・・・・なるほど。ちょっと待って頂戴。」

そう言ってリツコは白衣のポケットの中から

何かの端末のような機械を取り出して、慣れた手つきで操作する。

「・・・・・・・・それは?」

「ここのスーパーコンピューター、MAGIへ直接繋げる端末よ。

 パスワードと指紋で接続するから、私以外の人間には使えないけど。」

操作する手をそのままに、リツコはシンジの問いに律儀に答えた。

「・・・・・・・・・・・あったわ。ここから少し離れているけど、

 郊外に貴方達の条件に最も近い一軒家があるわね。

 NERVの職員が家族と一緒に住んでたみたいだけど、最近疎開して売り家状態になってるわ。

 近くにバス停があって、1時間に1本出てるわね。

 山のふもとの方にあるし、日照問題もクリアしてるわ。

 ただ、二人で住むにはちょっと広いけどここならすぐにでも住居登録できるわよ。ここで良いかしら?」

それを聞いて、お互いに顔を見合わせる太公望とシンジ。

目で合図して互いに頷くと、リツコに振り返って声を揃えた。

 

「「特に異議なし。」」

 

「そう、じゃあ早速登録しておくから、後で住所教えとくわね。

 ・・・・・・・・・・さて、それじゃあそろそろファーストチルドレンを紹介しますか。」

 

そう言って一つの病室の前でその歩みを止めるリツコ。

どうやら個室のようだ。扉の横には、”綾波レイ”と書かれたプレートが張ってあった。

リツコは軽く扉をコンコンとノックすると、扉のノブに手をかける。

「・・・・・・・レイ、入るわよ。」

一言そう断ると、中からの返答を聞かずにガチャっと扉を開けた。

 

 

「あ・・・・・・リツコさん・・・・・・・こんにちは。」

中に入ると、綺麗な蒼銀の髪をしたアルビノの少女が、

包帯であちこちを巻かれながらベッドの上に横たわっていた。

少し辛そうな顔をしながら、笑顔を作って挨拶するその姿には涙ぐましいものがある。

リツコは、そんな少女の行動に優しく微笑むとその頬に手を置いて口を開いた。

「まだ喋るのも辛いでしょう? 無理しないで休んでいなさい、レイ。」

「・・・・・・・・・ハイ。でも、大丈夫です。・・・・・・・・昨日よりは、楽になりましたから。」

にぱっと微笑むレイ。

それを見て、シンジが少々顔を赤らめた。

 

「・・・・・・・・・かぁいい・・・・・・・・・」

「お? 一目惚れか、シンジ?」

「そ、そんなんじゃないですよォ・・・・・・・」

 

太公望にからかわれて、シンジがぽりぽりと頭を掻く。

「エッと・・・・・・そっちの方々は誰ですか?」

レイが首をかしげながらリツコの向こうにいる二人に視線を合わした。

「ああ、今日から貴方の仲間になったチルドレンとその保護者よ。」

そう言ってレイが二人を見やすいように一歩移動するリツコ。

そして自己紹介をするよう目で合図する。

しかし、シンジはその前にと手で制止しながら、懐から定界珠を取り出してレイの前に掲げた。

「・・・・・・・痛々しくて、見てられないよ。こんな状態じゃあ自己紹介だって様にならないからね。」

レイに軽く微笑んだ後、シンジは手に持っている定界珠に意識を集中した。

 

・・・・・・・疾(チ)ッ!!

 

掛け声と共に、レイの体がぼおっと光りだす。

「・・・・・・え? え!? え!!??」

自分の体をきょろきょろと見回しながら、レイが驚きの声を上げた。

淡い光が収まると、シンジがクスッと微笑みかける。

「・・・・・・・・ケガ、治ってるだろ?」

「・・・・・・・・へ? あ、あれ? あれれ!?」

体に走っていた苦痛がなくなったことに気付き、レイが目をパチクリさせた。

その反応に満足し、シンジがピシッと敬礼の真似事をする。

 

「・・・・・・・・初めまして!!

 本日付けでEVANGELION初号機のパイロットとなったサードチルドレンの碇シンジと言います!

 趣味は飲酒、特技は道術、将来の夢は仙人です! 夜露死苦(ヨロシク)ぅ!!」

 

・・・・・・・・・最近、『じぃ〜てぃ〜お〜』にはまっているそうな。

 

「ほえ? 趣味が飲酒? 特技が道術? 将来仙人になるのが夢?

 何なの? 一体何がどうなってるの?」

頭に大量のハテナマークを浮かべながら困惑するレイ。

「・・・・・この二人はね、何と信じられない事に道士サマなのよ。」

肩をすくめながらリツコはレイの言葉に答える。

しかし、道士だからって未青年で酒を飲んで良いという事にはならないと思うが・・・・・・

「そういう事だ。わしの名は呂望。太公望で通っているのでそう呼ばれるとありがたい。

 ちなみにこれでも3000年以上生きておる。これからよろしくのう。」

「3000年!!? ・・・・・・・って、その上、太公望!!? それじゃあ碇シンジ君もやっぱり・・・・・」

「ああ、僕は君と同じ14歳だよ。まだ道術を学んで5年くらいだし、不老不死でもないよ。」

「ああ、そうなの・・・・・・」

シンジの言葉を聞いて、何故かレイはホッと溜息をついた。

 

「お礼言うのが遅れちゃったけど、ケガ治してくれてありがとう!

 あたしの名前は綾波レイ。

 EVANGELION零号機の専属パイロットで、ファーストチルドレンやってま〜す!

 孤児で親が居ないから、リツコさんの所でお世話になってるんだ。

 これからよろしくね、碇君!」

 

包帯を外しながらにこっと微笑んでレイも自己紹介をする。

どうやら、二人が道士で不思議な術が使えると言う事実はあっさり受け止められたようだ。

さらに、二人を拒絶する様子も異端視する様子も見当たらない。

物事の本質をしっかり見極める事が出来る頭の柔らかさをもっているようだ。

・・・・・もっとも、ただ単にお人好しで素直すぎるだけなのかもしれないが・・・・・・・

「うん、こちらこそよろしく、綾波さん。」

そう言ってシンジは微笑み右手を差し出す。

レイも、それにならって微笑みながら差し出された右手を握った。

 

「うむ! ・・・・・・カップル成立、かのう?」

満足げに何かに頷きながら口元を歪めて二人をからかう太公望の台詞に、

レイとシンジは真っ赤になってしまったのは言うまでも無い。

 

・・・・・・どうやら、二人とも満更でもないようだ。

 

 

「・・・・・・・さて、自己紹介も終わったし、レイのケガも治ったし、

 そろそろお暇(いとま)する事にしましょうか。

 シンジ君、太公望さん、住居まで案内するわ。」

手をぽんぽんと叩きながら、リツコが話を切り上げる。

時計を見ると、なるほど、すでに時刻は6時を過ぎていた。

「あのぉ、リツコさん・・・・・・・私は、退院していいんですか?」

「ダメよ。せめて一日検査を受けないと。

 いくら体に異常が無くても、カルテに突然治りましたなんて書ける筈無いでしょ?

 もう1日くらい入院しなくてはいけないわ。」

「ええぇ〜〜〜!!? 入院って退屈なんですよぉ〜〜〜!!

 一体何ヶ月動けなくてイライラした日が続いたか・・・・・・・」

頬をプクッと膨らまして不満を抗議するレイ。

それを見たシンジが思わずくすくすと笑ってしまった。

「綾波さん。確かに目につくケガや異常は全て治したつもりだけど、

 どこか見逃した所もあるかもしれないし、検査は絶対に必要だよ?」

なだめるように論するシンジ。

それでもまだレイは頬をプクッと膨らましている。

「ぶぅ〜〜・・・・・・そんな事無いもん。異常は無いって、自分で解るもん。」

よっぽど今まで退屈な日々を過ごしたのだろう。

機嫌はなかなか直らない。

「また明日もお見舞いに来るよ。だからさ、今日は大人しくしてようよ・・・・・ね?」

「ううぅ〜〜〜・・・・・・・・」

膨れた頬は元に戻ったものの、レイはいまだに口を尖らせていた。

お姫様のご機嫌はいまだにナナメのようだ。

仕方ないな・・・・・・・・と、シンジは溜息をつきながら肩をすくめた。

「・・・・・・・・やれやれ、これは試作品だし、非常時の為に取っといてたんだけどなァ・・・・・・・・」

そう言いながら懐をがさごそあさって、密封されたビニール袋を取り出した。

中には大判焼きのような丸くて厚くて平たい物が、いくつか和紙にくるんで入っている。

 

「これぞ碇シンジのマルヒアイテム! その名も『仙桃月餅(せんとうげっぺい)』!!

 桃のままで持ち運ぶ為にかさばってしまう仙桃の美味をそのままに、

 もっと長持ちして持ち運び便利な菓子を作ろうというコンセプトの元、

 研究に研究を重ねた現在5つしかない僕の手作り月餅だぁ!!」

某猫型ロボットのようにビニールを高々と掲げるシンジ。

太公望はそれを見て顔を引きつらした。

「・・・・・・おぬし、何時の間にこんな物を・・・・・・」

「か〜かっかっかっか! 僕がただ仙桃の品種改良をするだけで満足する男だと思いましたか?

 僕は日夜仙桃の様々な利用法を寝る間を惜しむ事無く続けているのですよ!!」

・・・・・・・・酒の為に睡眠時間を削るシンジの欲望に脱帽である。

 

 

 

―――さて、ここでちょっと本編から外れまして・・・・・・・

 

世の中わかんない事だらけ!!

武吉(ぶきち)・スープーの封神なんでも質問Q!!

 

武吉「さ〜って、やって来ましたこの時間! 皆さんの生活とは馴染みが皆無な月餅を解説する為、

    漫画版封神演義から特別出演して来た武吉です!!」

スープー「同じく、スープーこと四不像(スープーシャン)ッス!」

武吉「まったく、こんな所でここに出られるなんて意外だったなぁ〜。」

スープー「本編でも出して欲しいッスね。」

武吉「そうだね。でも、今はそんな事より僕たちの任務をまっとうしなきゃ!」

スープー「テレビ版封神演義でボクは実際に月餅を見たッス! 説明なら任せて欲しいッスよ!」

武吉「それじゃあ早速聞くけど、月餅って一体何なの? 僕、見た事も聞いた事も無いんだ、実は。

    月餅って言う位だから、やっぱりお餅なのかなぁ?」

スープー「確かに漢字では月の餅と書くけど、月餅は餅じゃなくて小麦粉で出来てるッスよ。

      蒸したアヒルの卵黄を餡(あん)で包んで、

      それを小麦粉で作った皮でさらに包んで焼いた中国独特のお菓子ッス。

      半分に切ると卵黄が丁度お月サマのように見えるから、月餅って言うッス!

      中秋節前の1〜2週間限定のお菓子で、

      中国ではお中元のように親しい人に配られたりするッスよ。」

武吉「へぇ〜、そうなんだ。今度一回食べてみようかな。」

スープー「いろんな種類があってなかなか奥が深いッス。

      家庭で作るお菓子としても月餅は親しまれてるッスよ。」

武吉「でもさあ、道士サマって生臭(なまぐさ)食べちゃいけないんだよね?」

スープー「? そうッスよ?」

武吉「んじゃあさ、アヒルの卵とかは生臭にならないのかなぁ?」

スープー「・・・・・・・・・・・・・」

武吉「・・・・・・・・・・・」

スープー「・・・・・・・・・・解らないッス。」

武吉「新しい謎が出てきたね。」

スープー「・・・・・・ま、まあ、この問題は記憶の彼方に追放するッスよ。」

武吉「・・・・・・・悩むだけ無駄だよね。」

スープー「それじゃあ、ここらで封神なんでも質問Qはお終いッス。」

武吉「場面を本編に返しま〜す。」

 

 

 

「・・・・・・セントウ?」

聞きなれない単語にレイは首を傾げた。

「そうだよ。仙桃って言うのは仙人界特産の酒の成分が入った桃の事でね。

 この仙桃月餅はその仙桃を裏ごしした物を餡に加えて、

 皮を作るときに使うかん水(よもぎの一種を燃やした灰などで作る、アルカリの性質を持たせた水)に

 仙桃のエキスを混ぜて作った物なんだ。

 だから薄っすらピンク色に染まってて、

 仙桃本来の性質によって食べれば3割体力が回復してしまうという優れものさ。」

そう言ってビニールの中に入っている和紙に包まれた月餅の一つをレイに手渡すシンジ。

「・・・・・・食べ物で釣るの?」

「人聞きが悪いなあ。大人しく入院する事を決めたお姫様へのささやかなプレゼントだよ。」

・・・・・・・・・やっている事は変わらない。

「・・・・・・それとも、いらない? 残念だなァ・・・・・・・」

そう言ってレイの手に置いた月餅に手を伸ばすシンジだったが、

レイは素早くてを引っ込めてそれをかわした。

「にひひ・・・・・・・つられてあげる♪

 レイちゃん、ここんとこずっと食べ物を口に入れてなかったのだ♪」

どうやら食べ物に目が無いらしい。

にこにこしながら和紙を丁寧にはがして、中から仙桃月餅を取り出した。

出てきたのは綺麗に造形されたピンク色の月餅。

表面に大きく『仙』とプリントされ、その回りには桃の木の葉をかたどった物が彫られている。

「わぁ・・・・・綺麗だね、これ。」

「でしょ? デザインとか決めるのに結構苦労したんだよね。」

しかし、デザインさえ決めれば後の型は定界珠で即座に作れる。

作る際にも苦労をしたという誤解を生ませる言葉と言う物は、まったくもって素晴らしい。

そんなことは露知らず、レイはぱかっと月餅を二つに割ってみる。

中には真ん丸いお月サマが入っていた。

「へぇ〜・・・・・・綺麗なお月様だァ・・・・・・・」

中から甘い桃と酒の香りが漂い、鼻腔を優しくくすぐる。

「真ん中のお月様にもちょいと僕流の工夫が凝らしてある。

 ただアヒルの卵黄を入れただけだと味気ないから、

 カスタードクリームとやはり仙桃のエキスを少々加えて練ってみたんだ。

 緑茶に良く合いそうな感じだよね。」

客に出した料理の説明をするシェフを気取って、シンジはにこにこと月餅に凝らした工夫を示す。

そんな時、信じの後ろから二つの手がガシッと両肩をつかんだ。

 

後を見ると、涎をたらしたリツコと太公望が、

仙桃月餅の入ったビニールを穴が空くほど見つめながらシンジの両肩を掴んでいる。

「・・・・・えっと・・・・・なんでしょう?」

二人のあまりの形相に顔を引きつらせながら、声微かに口を開く。

心なしか声が震えているような気がしないでもない。

シンジの両肩を掴んだ二人は、何を思ったか二人ユニゾンして歌を歌い始めた。

 

「「も〜も太郎さん、桃太郎さん♪

  そ〜の手〜に持った〜月餅を〜♪

  ひ〜とつ〜わ〜たし〜に寄越しなさい♪」」

 

肩に置かれた手がみしみしと言う音を立てて縮まっていく。

「ち、力いっぱい命令形ですか? 後四つしかないんですけど・・・・・・・」

「「また作れ。」」

みしみしみし・・・・・・

「いたたたっ、解りました、解りましたから・・・・・・・・」

 

ビニール袋に手を入れて、仙桃月餅を二つ取り出すシンジ。

「(しくしく)・・・・・・ハイ、どうぞ・・・・・・・」

試作品仙桃月餅、思わぬアクシデントで5つから2つへ。

癪なのでシンジも仙桃月餅に手を伸ばした。

 

「「「「いただきま〜す!」」」」」

 

 

 

―――全員そろってユニゾン。

 

 

 

――― 一斉に口に運ばれる仙桃月餅。

 

 

 

―――時が止まる。

 

 

 

――― 一泊置いて・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「残りの一つは貰ったああああああ!!!」

「そうは行かないわ!! 私の物よ!!」

「二人とも引っ込んで残りの1個は病人に譲るの!!」

「ギャアアアアアアアア!!!!??」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・結構血生臭い事になってしまったので詳しい事は黙秘させて頂こう。

今は病室内をカマイタチが吹き荒れたり、

ドドメ色の液体の入った注射器が飛び散ったり、

何故か八角形の赤い壁がそこらじゅうに現れたり、

その影響でずたぼろになった人間の形をした物が空を飛んだりしたとしか言う事は出来ない。

とにかく、この事件の後に仙桃月餅は大量生産され、

NERV内での名物になっていたとかいないとか。

 

 

この事件をMAGI越しに司令室で見ていた黒ひげ危機一髪のコメント。

 

「・・・・・・・・・・・・・・問題ある・・・・・・・・・・・・・・・(すたこらさっさ)」

 

・・・・・・・あまりに残虐な光景の為にモニターの前から逃げ出したようだ。

 

 

 

 

丁度その頃。

 

「すみませんね。僕はここを動けませんし、むしろ貴方が行った方が師叔(スース)も話し易いでしょう。」

「別に構わないよ。僕も久しぶりに望ちゃんに会いたいしね。何年ぶりかな・・・・・・・3000年?」

「ええ。あの頃我々は太公望師叔に頼りきりでしたから今までそっとして置きましたけど・・・・・・・

 今回ばかりは『アレ』が動き始めている上、まだ裏がつかめてませんから。

 多分師叔の力が無いと今回の事件は人類全てを巻き込み、破滅の道へ導くでしょう。」

「そうだね。・・・・・・・・・あの頃はいろんな事が起きすぎた。

 そして・・・・・・必ず望ちゃんが中心にいたからね。

 いくら全てを計画した張本人としても、望ちゃんが負った心の傷は大きい。

 出来ればそっとしておいて、これからも自由気ままに過ごして欲しかった・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・仕方ない・・・・・・・か。結局はこの言葉に逃げるしかないんですね・・・・・・・」

「望ちゃんの力のせいで、はっきりとした望ちゃんの行動は解らないけど、

 どうやら仙人骨を持つ人間を見つけて弟子にしたって言うからね。楽しくやってればいいなァ・・・・・・・。

 ・・・・・・・・でも、それって新仙界側の職務怠慢だね?」

「面目ない・・・・・・・・昔のように大々的に活動出来ませんからね、今は。

 仙骨を持つ人間は力を密かに封印しているんですが・・・・・・・

 やはり見つけられない場合もあるんですよ。」

「ふふっ、解っているよ。たまたま愚痴を言いたくなっただけなんだ。・・・・・ごめんね?」

「はは・・・・・・解ってますよ。それでは・・・・・・・肉体再生する為の許可証です。持って行ってください。」

「ありがとう。しばらく向こうに留まる事になるんだよね?」

「はい。そのうち、機を見てこちらから新たに神たちを向かわせますから。当分は情報集めですね。

 『例の計画』の方も後1ヵ月後ですから・・・・・・・・彼らも着き次第向かわせます。」

「解った。・・・・・・・・それじゃあ行ってくるよ、『教主様』。」

「やめて下さいよ・・・・・・・嫌がるの知ってて。」

「でもねぇ・・・・・・もうちょっと立場相応の態度取った方が、良いような気もするけどね。」

「・・・・・・・・真にこの立場にふさわしい人間は僕ではありません。太公望師叔ですよ。」

「ふふっ、望ちゃんの方が嫌がりそうだね。かたっくるしいの苦手だから。

 それじゃあ、本当に行ってくるよ。」

「あ、待ってください。」

「・・・・・・・・・・ん?」

「あの・・・・・・師叔にすまない、と。そして・・・・・・僕が会いたがってると、伝えておいて貰えませんか?」

「・・・・・・・うん。解ったよ。ちゃんと伝えておく。」

「ありがとう御座います。・・・・・・・それでは、お気をつけて。」

「うん。・・・・・・・行って来ます。」

 

 

 

・・・・・・・・時代は廻り、神話の時代に生きた者たちが再び歴史の歯車に近付いた。

これより全てがはじまり、そして終わる幻想記が始まる。

導は去った・・・・・・しかし、それ以上の脅威が近付いている。

太古より始まり、未来を見つめ、運命を縛る真の意味での脅威。

 

 

 

全ての歯車は動き出した。

 

 

 

・・・・・・・来視命縛幻想記が今始まる。

 


 

どうも、アンギルです。

最後にこれを執筆したのが正月でしたから、2ヶ月ぶりの投稿ですね。

遅れて申し訳ありません。

そのかわり・・・・・・・っと言うのもなんですが、今回はちょっぴり長めです。

今回は武吉とスープーが特別出演。

本編にも出る予定です。

さてさて、本格的に全てが動き出した来視命縛幻想記。

つまり未『来』を監『視』し、運『命』を『縛』る、

『幻想』を廻る異聞『記』が始まる訳です。

更新が遅いですが、見限らないで下さると嬉しいです。

それでは、感想お待ちしています。

以上、アンギルでした。

 


 

>「「も〜も太郎さん、桃太郎さん♪

  >そ〜の手〜に持った〜月餅を〜♪

  >ひ〜とつ〜わ〜たし〜に寄越しなさい♪」」

 ・・・笑えました、本来リツコよりミサトが言いそうなセリフなのですが。

 

>「・・・・・・・・・・・・・・問題ある・・・・・・・・・・・・・・・(すたこらさっさ)」

 あのゲンドウが『問題ない』で有名な、いったい病室で何が!?

 

さて、管理人とは、作者の三話分が一話で読める長さを持つ、アンギルさん作品に感想メールを!

アンギルさんの作品はご自身のホームページであるWing of Seraphimで読めます。

最近、裏ページ(18禁小説サイト)も開設もなさいました。 

 


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