第十七話「長井の悲しみ」

さっそく、シンジとアスカのユニゾン訓練が始まる。アスカは、はっきり言って下手だったが、シンジはいきなり見事な踊りを披露した。シンジは昔この踊りを偶然、練習した事があるとの事。

実はシンジは音楽が得意であった。報告書によるとチェロもなかなかの腕前だとか。音楽全般ある程度かじっていたそうなので、きっとその時にやったことがあったのだろうと、信長は思う。

「もう、イヤぁ〜。何か日本に来てからロクな事無いわ。」

佐藤夫婦恐怖症にかかるし、使徒戦で敗れるは、こんなくだらない訓練につきあわせられるし、アスカの愚痴も無理はないだろう。だが、もちろんそんな事は濃は無視。

「ほら、アスカちゃん。まだまだ、腰の回転が甘いわよ。」

・・・もうだめよ〜、体力持たないわ。今日は、信長さんにあんなにしごかれた上に、すぐに使徒戦、その上、こんな激しいダンスまでさせられるんだから・・・・。

バタッ、ついにアスカがぶっ倒れた。さすがにこんな状態では、踊りの訓練などしても身につかないでの今日のところはこの辺で特訓終了。そのまま明日に備えて寝る事になった。

二日後、やっとシンジになんとかついていけるようになったアスカ。シンジの方はもう完璧である。元々、それほど難しい踊りではない。

「ええ、まだやるの濃さん。もう勘弁してよ〜。・・・この音楽もう寝る時も頭に離れないんだから。」

音楽といえば・・・信長はこんな思い出がある。1549年の事だ。信長は馬に乗って堺に出かけていた。当時の堺は日本屈指の国際色豊かな貿易港である。

もちろん、信長は大名の息子。・・・普通、警護もなしに城をでることは絶対にない。だが、そこはうつけ者として有名だった信長の事。そんなことはまったく気にせずに出かけて行く。

はじめは鉄砲を見に行った信長。鉄砲を持っているのは南蛮の商人だろうと目をつけ、かたっぱしから南蛮人に鉄砲購入の交渉に行く。・・・当然、言葉は通じないが。

そこで、信長はキリスト教の宣教師に出会った。信長は鉄砲を購入できないか頼んだつもりだったのだが、その宣教師にそのことは伝わらなかった。

信長のその時の服装はぼろぼろの普段着であった。この方が自分の身分がばれないし、なにより動きやすくて信長は好きなのだ。

宣教師は信長を教会に連れていった。・・・信長がぼろぼろの格好だったため、身分が低い者と勘違いして、キリスト教を教えこもうとしたのだ。

そこでは南蛮の複雑な音楽流れており、信長は多いに驚かされた。そう、音楽先進国のオルガンと賛美歌が同時に流れていたのである。

こんな音楽を生まれて始めて教会で聞かされ、神の音楽といわれれば、大半の人間は信じてしまうだろう。その上、彼らはその進んだ、医療技術で、病人を無料で受け入れ、不死の病だった者を次々と直していった。

・・・さすがに信長もその時は、少し神を信じてしまった。まして、信長の他に教会に来た他の者は完全にキリスト教を信じきってしまった。

実はここにも宗教の恐ろしさが感じられる。そう、南蛮の国々は日本にキリスト教徒を大量に作り,強力な自国の兵とし、日本を乗っ取る計画を立てていたのだ。

だが、この宣教師個人としてはまるでそのような気はなかった。ただ、本当にキリストの教えで、少しでも多くの貧しい者を救いたい一心で日本に来たのである。

・・・この辺の個人としての”宗教”のとらえ方と、国としての”宗教”のとらえ方には大きなくい違いがあることがあり、そこらへんが宗教の悪い部分をさらに飛躍させているのだ。

むろん、宗教には神への忠誠ができ、悪い事はできないと言う判断力をつけさせ、犯罪の減少、地域社会のつながりを太くするなどの長所もあるが。

そして、個人と国のギャップが最も激しいのがゼーレである。この場合”宗教”と言うよりも”善悪”であるが・・・。彼らの正義感と一般人の正義感はあまりにも異なっているのだ。

さて、ユニゾン訓練の方だが、・・・特訓二日目もアスカに対して厳しい練習がみっちりと行なわれていた。シンジは100%完璧になっており、もうやる事はない。

信長の携帯電話のコール音が流れてきた。すぐにボタンを押し、電話を耳に当てる。

「信長さん、加持です。大変ですよ、井口首相が暗殺されました。」 

「なに〜。・・・これでネルフとゼーレの独裁が始まるな。」

「ええ。碇司令は、やりたい放題ですよ。」

・・・今まで,NERVをかろうじて抑えてきた井口首相の死によって,今後の日本は事実上、NERV&ゼーレの独裁になることになった。

そのころNERVの司令室には二人の男が席に座っていた。

「碇・・・、あのシナリオ通り,首相暗殺事件は成功した。」

「ああ、冬月。これで、予定通り、日本政府を影から操れる。今ごろ国会は大騒ぎだろうな。」

なぜかこの事件を予想していた、ゼーレと碇司令は、この混乱を利用し、一気に権力増大をする計画を立て,すでに実行に移していた。加持との電話が終わった数十分後,今度は長井総帥から、電話がかかってきた。彼は首相暗殺事件の処理で大忙しである。

「信長さん,大変です。極秘事項ですが・・・」

「首相の件だろ。もう加持から聞いたよ。で、そちらの今後の動きはどうなって行くんだ?」

「とりあえず、影武者を立てます。・・・今、井口首相がいなくなっては、大変ですから。」

「まあ、どうせバレるだろうな。実際、もう加持には20分以上前から、情報が漏れちまってるぜ。」

 ・・・長井は沈黙するしかなかった。もちろん、影武者など立てたところで,バレるのは予想していたが、まさかそこまでのスピードとは。やがて、長井はポツッと、口をこぼす。

「・・・早過ぎますよ、井口首相。あなたはまだ日本に必要な人だったのに。」

井口首相が、首相になったのは2003年の事だった。元々、日本は自給率が30%を切っていたため,セカンドインパクトの影響で海外から食物が輸入できなくなると大混乱になった。

日本全体の餓死者は二千万人とも三千万人とも言われる。大都市では、雑草すらなくなり、人々は土まで食らい,人肉すら食べるありさまだった。

それを見事に解決して見せたのが井口首相である。彼は、大量の栄養剤を作り,人々に配給したのである。1日に3粒食べれば生きて行ける、すぐれものだった。

人々は空腹感こそ、あまり癒され無かったが,とにかく、栄養がしっかり取れるので生きていけるようになった。

今では、次なる飢饉の時に備え,全ての都市のあらゆる場所に大量の栄養剤がストックされている。井口首相がいなければ、今日の日本は無かっただろう。

また、長井司令は、彼と直接何度も会っており、その人柄を非常に慕っていたのである。政策面でも共通するところが多かった。

「・・・確かに、惜しい人を亡くしたもんだ。」

信長も井口首相の死を心から惜しんだ。長井司令と違い直接あった事は無いが,やはり、その輝かしい業績には尊敬する物があった。

<ピッ>信長の携帯メールが届いた。電話はまだ接続中だ。しばらく、沈黙が続いていたが、長井が再びしゃべり始める。

「首相が暗殺した可能性がある組織を並べてみると,今送った、メールのようになりますが・・・。」

「おそらくココだろうな。」

「・・・NERV?信長さん、自分がいる組織じゃないですか?」

「ああ、そうだ。・・・そして、動機も犯行能力も十分だ。碇司令なら暗殺くらい平気でやるだろう。」

「・・・・・・。」

その後、お互い別れの挨拶をし,電話を切る信長。今は、とりあえず、次の使徒を倒さなくてはならない。

ユニゾン訓練に戻らねば。アスカがまだうまく踊れないのでなおさらだ。

そんな中、綾波レイが久しぶりに家に帰って来た。信長の家に引っ越したのだが、NERVの仕事上,向こうで泊まりっぱなしだったのだ。

「セカンド・・・うまく行ってないみたいね。」

ボツっとつぶやくレイ。・・・猛烈な怒りがこみ上げるアスカ。天才を自称する彼女にとって、物凄い屈辱だった。

「難しいのよ・・・。もし、あんたが私の立場ならもっと酷いはずよ。」

「いえ、そんなことは無いわ・・・。」

「はん、じゃあ証拠見せてよ。今すぐ、ここで踊って見せて。」

「ちょっとアスカ、そんな乱暴な。アスカはもう一日半、練習してるけど、レイは今,ちょこっと見ただけなんだよ。」

シンジの言う通りだ。今のレイは、まったく踊れなくて同然なのである。だが、ちょっと濃は遊び心が出た。

「ははは。じゃあ、レイ,アスカの言う通り今すぐ踊って見せなさいよ。あなた、ミュージック準備して。」

信長がCDのスイッチを押すと,シンジとレイの見事な踊りが始まった。


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