第十八話「クローン技術」

シンジとレイの踊りは見事だった。美しい蝶のように華麗な動きをしている。・・・あまりにもバッチリな二人の息に皆、驚きを感じる。

(・・・信じられんいったいなんなんだあの二人は?俺は西洋の踊りは素人だが、プロでもないのにいきなりあんなにピッタリ合うなんて不可能だ!) 

「・・・やるわね、お二人さん。」

「まったくだ。これで、零号機が修理中でなかったらな。」

激しいショックを感じるアスカ。なんでも一番でなければ気がすまない彼女にとって、佐藤夫婦の言葉はあまりに屈辱的だった。

「・・・だったら、レイが弐号機に乗ればいいじゃないですか。」

アスカは涙をうかべて、部屋を出て行ってしまった。・・・美女の涙,まさに男心をそそるわね、と何か間違った事を考えている濃。

「あの、僕・・・追っかけに行きます。」

「・・・止めて置け。ほっときゃ,戻ってくるさ。」

「でも・・・。」

「いいから、放っておくんだシンジ。このぐらいの事,自力で乗り越えなきゃエースパイロットの資格は無い!」

・・・アスカは家を飛び出すと、わけもわからず走っていった。やがて、人気のない公園にたどり着く。そこにいるのはアスカだけ。椅子に座る。

・・・私が、あんなヘボパイロット二人組に負けるなんて・・・。アスカは、まだ泣いている。ゆっくりと立ちあがり今度はブランコに立ち乗りする。その後も、しばらくアスカは泣きつづけた。周りには一向に誰もこない。もう、夏の長い夕日も沈んで行く。

公園に、一人いる涙をうかべた少女・・・ナンパ男がいたら,ぜったいに首を突っ込んでいただろう。 アスカはブランコに座ったまま,30分,60分,90分,120分・・・刻々と時間は過ぎ去って行く。

「なにやってんだろ,私・・・。」

かれこれ、この公園に3時間ぐらいだろうか。美しい顔が鼻水がたれてしまって、みっともなかい。トイレに入り顔を洗うアスカ。 割ときれいなトイレで水道の栓を締め終えると,自分を鏡で見るアスカ。そこに映っているのは・・・

「みっともないわね・・・、ホント。」

ふっ、苦笑して笑うしかないアスカ。・・・自分のみっともなさが、顔を見ればみるほどよくわかる。

「何が,エースパイロットよ!これのどこが・・・エースよ!」

さらに数十分が過ぎ、もう家に帰ろうとも思った。でも、みっともなくて・・・情けなくて、帰るに帰れない。そして、空一面真っ暗になってしまった。

その空をボ〜ッと眺めるアスカ。もう何もしたくなくて、ボ〜っとしている。誰も彼女を助けにはこない。これがドイツならチルドレンとして優遇されている彼女のこと、すぐにNERVの向かいが来ただろう。

それは日本でも変わらないのだが、信長はあえて放って置いた。・・・他人に頼らず独力で、それが最終的にアスカのためになるとの考えからだ。

「・・・もう、行かないと。」

アスカは一人で、とぼとぼ帰っていった。マンションにつくと、まだ迷いが残っていて、信長の階の玄関前でしばらくフラフラししていたが、結局は扉を開けた。

信長は黙ってCDプレイヤーのスイッチを押す。すぐに踊れと言う無言の脅しだ。シンジも加わってすぐにユニゾン訓練が再開された。 その後の特訓は厳しいものとなった。アスカとシンジの荒い息、信長の厳しいまなざし。・・・ひたすら重苦しい雰囲気が立ちこめている。

そうして、二日が過ぎ使徒との決戦当日。アスカとシンジの呼吸はぴったりだった。それはまさに、アスカの目指す美しい戦いであった。,信長も指示を出す必要は無かった。

使徒は完全にその華麗な動きに翻弄され手も足も出ず、分裂していた二体そろってすざまじい爆発をした。・・・皮肉にもその爆発は花火のように美しかった。

・・・無事、使徒を殲滅したとなると信長が気になるのはやはり首相暗殺の件だ。今だにその関連の速報ニュースがTVでは一切流れていない。さっそく電話で加持に連絡を取る。

「もしもし。ああ、信長さん。今回の分裂使徒殲滅・・・」

「首相の件だ。」

ここらへんは、昔からせっかちな信長。余計な話しを極端に嫌う。・・・そして、その変は人間関係に長けている加持、よく心得ていた。

「俺の推測ですが・・・恐らく碇司令がもみ消したのではないかと。」

「なに!!・・・いったいどうやって?」

「どうやらNERVの財力を使って首相にそっくりの人物・・・影武者を探し出したようです。しかも恐らくクローン技術を使って。」

「しかしクローン技術で作った人間は・・・。」

そう、現在の技術ではクローン人間は元の人間とまったく同じ、あるいはもっと若い人間になってしまうのである。詳しい科学的考察は別にして、この事実は一般常識である。

「NERVには人間を含めた生物の成長を速くするなんらかの方法をすでに会得しているのでは・・・と私は推理してます。NERVがクローン実験を進めていると思われる証拠はつかんでます。」

その日のうちに副司令から信長に綾波レイはNERVの訓練で忙しくなるので、信長の家を離れ、再びNERV本部内で住ませると言う連絡が入った。

・・・まさか、この事がNERVのクローン実験に大きく絡んでいるとは信長も加持も、今はまったく知る余地が無かった。そう綾波レイは実験クローンそのものであるのだ。

信長はその日の残業処理をまたもや葛城ミサトに押しつけると、さっさと家に帰っていった。家に入ると、信長の視線に凄いものが飛びこんで来る。

「な、なんだこの荷物の山、山、山は!」

「すみません信長さん。私の荷物をドイツから運んできたら入りきらなくて。・・・ホント、日本の家って狭いですよね。」

・・・アスカはシンジと同じ信長の家に住む事になったのだ。シンジが気になったからではないかと言うのが、濃の言葉だが信長は理由は何か別にあるだろうと思っていた。・・・実際は濃の言葉が正しいのだが。

シンジの作った料理が運ばれて来る。アスカ笑顔一色。・・・そう、アスカが同居を申し出た理由はユニゾン訓練中にシンジの料理に味を占めたからだ。葛城ミサトと同類である。

「よく食うな、アスカ。シンジを専業主夫にもらったらどうだ?」

「・・・確かに便利そうだわねぇ。でも、私はもっといい男と結婚したいの。シンジ、あんたは家政夫として雇ってあげるわ。」

「遠慮しとくよ。・・・殺されそうだから。」

当然アスカお決まりの怒りの鉄拳がシンジにヒットする。シンジは星のかなたへと消えて行くのであった。ちなみにアスカのパンチ力は天下一品である。 

食事が終わると信長は何気なくTVをつけた。・・・画面には、人気のバラエティー番組が中止され緊急特番が放送されたいた。・・・字幕の文字は"首相、脳梗塞で倒れる!”と書かれていた。

「あら大変な事になってるわね、貴方。」

「私が日本に来たとたんにねぇ・・・。」

(・・・なるほど。例えクローンを作っても生活環境で考え方なんかは違うからすぐは変わるから本当の首相は死んでいるとすぐばれてしまう。だが、病気のクローンなら面会謝絶すればどうにでもなる…。)

死んでいるならすぐに他の者が首相に任命されるが、病気ならばしばらくは様子を見ようと言う事になり首相交代までに時間ができる。その時間の間に政府上層部の連中が自分達に都合のいいような次期首相を選ぶ…。

そして、その工作を手伝ったNERVは政府上層部に恩を売った事になるのだ。同時にNERVの力も示すことができる。政府の公式発表で井口首相が死んだのは本当に死んだ日よりも実際よりも1週間遅くなった。…こうして、じわりじわりと日本は碇司令に乗っ取られつつあった。

それから約3週間後、マグマの中に謎の生物が住んでいる事が発見された。その生物の実態を調べるため、NERV一同は現地に借り出された。恐らく使徒であろう。

「信長さん、海中1200Mマグマ探査機もう限界です。」

「構わん。壊れるまで潜らせろ!金は弁償する。」

1400Mを突破した所でマグマ探査機は壊れた。謎の生物の解析の結果はやはり使徒。さっそく殲滅の会議がNERVの間で開かれた。

「君はどうしようと思うかね、信長君。」

「司令。使徒は胎児。少々危険ですが、サンプルを取るため捕獲するのがいいと思います。・・・ただし、私の判断ですぐに殲滅に切りかえられるようにして下さい。」

「碇、どうする?」

「ふっ、私もそのつもりだ。存分にやりたまえ。」

この作戦はNERVの裏の上位組織であるゼーレでも認められ、さっそくこの日の14:10分より開始される事になった。 マグマの中に飛びこんで使徒を確保するのはアスカの役目になった。これは、弐号機しか耐熱装備に対応していないためである。

「ちょっとなんなんですが、この風船みたいなダサイ服は。」

「我慢しなさい。それとも他の誰かに弐号機に乗ってもらおうかしら?」

・・・実際は弐号機にはアスカしか乗れないのだが。・・・次ぎのアスカの答えは皆の予想通りであった。

「仕方ないわね。私が乗るわよ。」


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