第19話「油断」

マグマに眠る使徒の捕獲作戦が開始されようとしていた。上空では戦闘機が空中で待機していた。信長が怒りを抑えながら口を開く。

「私も信用がありませんな碇司令。・・・爆雷などで使徒は倒せませんよ。」

「ふっ・・・。」

そう、上空で戦闘機が待機しているのは使徒の捕獲作戦が失敗した際に、使徒殲滅のため耐熱爆雷で現場ごと燃え尽くすためだ。そこに情けと言うものはまったく無い。 

信長は気持ちを切り替え、作戦開始の支持をおくった。弐号機がマグマの中を潜水していく。・・・深度170M、ここまでくると視界はまったくの0だ。

「深度400。500。600・・・」

徐々に深度の数字が大きくなるにつれて、さすがにアスカの表情も緊張したものに変わっていく。予測深度の1300Mを超えても今だ使徒は見つからない。

「安全深度を経過しました。どうしますか信長部長?」

「・・・もっと潜ってくれ。」

 もはや安全深度は超えている。発令所は静まり返り、オペレーターのマヤの深度カウントだけが響く。だが突然,バシっと破裂音が鳴り響いた。

「第2循環パイプに亀裂。限界深度オーバーです。」

「・・・1570MまでEVAの降下をしろ。」

EVA弐号機の中は相当な高温になっている。アスカは汗だくだく。見ただけでも暑くて仕方ない 信長の指示でさらにEVAはマグマの奥ヘと進入して行く。だが、やはりまた破裂音が鳴り響いた。止め具が外れプログナイフが落下して行く。

「いかん! 弐号機降下、一時中断。 シンジ、アスカにナイフを渡せ。」

「えっ・・・わかりました。」

シンジがマグマの中にプログナイフを投げ込む。このナイフは使徒の捕獲失敗をして戦闘になった際の信長の重要な切り札だ。

アスカがシンジのプログナイフを受け取ると作戦が再開される。・・・深度1560Mようやく使徒を発見した。すぐに捕獲作業に移る。リツコ特製、使徒キャッチャーの出番だ。

アスカがその使徒キャッチャーを展開。使徒はなにやら固形状の物に包まれていく。捕獲は無事に成功したようだ。アスカの肩の重荷がいっぺんに吹っ飛んだ。

「なんだ、やっぱり楽勝じゃん。」

「アスカ油断するな(しないで)。」

信長のきつい怒号と、シンジの語りかけるような優しい声が同時に響いた。だが、アスカは解放感のあまり二人の命令と忠告に耳を傾けていなかった。

信長は碇司令を見るために顔の方向を変えた。・・・表情に変化はない。事がうまく運んだ時にわずかにでる、にやりとした顔がまだ出ていない。 

「緊張がいっぺんに解けたみたいね。ミサトも心配だったんでしょ,今回の作戦。」

「まあねリツコ。でもうまく行って良かったわ。・・・もっとも私の出番はなかったけど。」

「アレの二の舞はご免だわ。セカンドイン・・・」

「・・・お前らいい加減にしろ!まだ作戦は終わっていない。無駄口を叩くな!」 

「皆さん、集中してください!」

信長とシンジの声に、リツコとミサトはその言葉に一応会話を止める。・・・だが、発令所全体にはすでに作戦は無事成功したと言う安堵の空気が広がっていた。

だが、信長は使徒捕獲後もなぜか不安でしかたないのだ。そして、使徒の事をよく知っているらしい碇司令がニヤリとした顔を出さなかった事がその不安を倍増させていた。そして・・・

「キャー、な、なによこれ。動いているわ。」

「大変です。使徒が羽化を始めています。A.Tフィールドも同時展開中。」

「落ち着けアスカ。これより捕獲作戦を破棄、”熱膨張作戦”に切りかえる。各自、予定通り行動せよ。」

(ちっ、やはりこうなったか。最初から嫌な予感がしてたんだ。)

使徒は羽化が完了すると、すぐさま弐号機に向かって大きな口をあけて迫ってきた。アスカがプログナイフでなんとか攻撃をしのごうとするが、使徒にEVAの左腕循環パイプ部分を噛み付かれてしまう。

「ぐっ、しまったわ。」

使徒はその後、いったん口を離し再び攻撃に移ろうか?と言う体勢を取った。その時アスカは使徒にやられた左腕を強引に使徒の口へとつめこんでいった。

そして、事前の信長の指示通り,濃がスイッチを押し冷却液をすべて3番に切りかえる。使徒の口の中へ大量に冷却液がそそぎ込まれる。苦しみ、もがく使徒。

そうこれが信長が考えた”熱膨張作戦”だ。物は暖めれば膨らめば大きくなる、冷やせば縮んで小さくなる事を応用した物であった。

使徒の必死の抵抗むなしく、どんどん力をうしなっていく。使徒の口の中から漏れ出す冷却剤の量もどんどん少なくなって行き、やがて生命活動を停止した。

「パターン青、消滅。使徒は完全に沈黙しました。」

死んだ使徒はさらにマグマの底へと沈んで行く。もはや幼児状態のサンプル回収は不可能。EVA弐号機を地上へと引き上げるので精一杯だった。

その後,ミサト・リツコ・アスカの3人は徹底的に信長から厳重注意+減給を言い渡された。これに反抗したミサトには1ヶ月のビール禁止令もくっついてきてしまった。

本来信長の地位ではリツコを処分できないのだが、なぜか話しはすんなり通っていた。・・・冬月とゲンドウが日頃から信長の越権行為をある程度、見逃していたためだ。

この日の夜。シンジ達は慰安旅行と言う事で温泉街に来ていた。・・・実はシンジ達の学校は今修学旅行中だ。しかし、待機命令のため参加できなかったのでそのお詫びにと言う事らしい。

だが、中学生が温泉街に来て楽しめるだろうか?お歳がいっている方ならともかく。ましてやアスカは熱いマグマの温泉から戻ってきたばかりである。

「ふふ、やっぱここの温泉はいいわ。やっぱあの人脅して、正解だったわ。」 

「はあ〜、濃さんいい所連れて行くからって言うからついてきたのに。・・・なんで温泉なんですか。私ずっ〜と入ってたみたいなもんなのに。」

 そう、本当の理由は信長がNERVでアダルトサイトを見ていたのを濃に発見されたからだ。そしてそれをネタに脅され濃が大好きな温泉街へ”子供のため"と言う口実を作ったのだ。

しかし情けない、あまりに情けない信長。果たしてあの恐怖の戦国魔王はどこへ行ってしまったのだろうか?しっかり奥さんの尻に焼かれてしまっている。

「シンジ、よくやった。お前だけだったな、使徒捕獲後に油断しなかったのは。」

「・・・・・・あ、ありがとうございます。」 

(・・・本当に意外だったぜ。あの時、上の二人以外、NERVのメンバーは全員油断していたのにまさかコイツだけが。…碇シンジ、思ってたよりやるようだな。)

それから、2週間後。信長の携帯電話の音が鳴る。電話のスイッチを押し、声を出す信長。相手は加持であった。またもや重要な情報を仕入れてきたのだ。

「もう、毎度恒例と言った感じだな加持。で、今回はなんだ?」

「長井さんから、連絡がありました。6日後にNERVの電力を一斉ダウンさせ、内部の偵察をするようです。」 

「成功確率はお前から見てどうだ?」

「たぶん成功すると思いますね。・・・あと、この計画は長井さんの意思ではありません。」

長井さんとは戦略自衛隊の長井司令の事だ。実は戦略自衛隊は派閥があり、特に西日本に本拠地をもつ石川派閥は名目上は戦略自衛隊の一員でありながら、実質は別組織に近い。

それは、NERVの本部(日本)と支部(外国)とがまったくの敵対関係にあるのによく似ている。

今回のこの作戦は石川派閥が提唱したものであり、長井司令が反対する理由もないので形状はそれを了承したものになっている。・・・事実上は力で無理押ししたようなものだが。

長井司令としては意地になれば反抗できない事もなかったが、石川派閥にさらなる恨みを買って、そこまでする必要はないとの判断だった。

もちろん信長はつい昨年まで戦略自衛隊の中枢にいた人物だ。そこらへんの力関係は詳しく知っていたので、加持の話しはすぐに納得できた。

「停電か。・・・もし、その間に使徒が来たらアウトだな。」

「そうでしょうね。使徒がこないかどうか、占い師にも聞いてみますか?」

「・・・おあいにくだな。俺はそういうものは大嫌いでな。」

信長は占いなど非科学的なものが大嫌いであった。その姿勢は幼いころより、一貫して変わっていない。・・・TVの占いコーナーを見てると途端に不機嫌になるのだ。

それから5日間、信長は停電中に使徒がやってきても撃退できるようにできるだけの準備を行なった。

残った電力をすべてEVAに・・・、手動でのエントリープラグの注入・・・、EVAの内部電源のチェック等やれることはすべてやった。その総チェックが完了した次ぎの日、信長と加持の心配通り,使徒がやって来た。・・・NERVの残り電力はわずかである。


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