第5話「ゲンドウの力」

EVA初号機のエントリープラグの中にシンジはいた。LCLで酸素を取込むことにもなれ、呼吸も普通にできるようになっていた。シンジは目を閉じている。

「インダクションモード、開始。」

シュミレーション上で、バレットガンを打ち、使徒に攻撃するシンジ。その腕はあまりよろしくない。訓練を開始してから2週間以上たつが、並みの中学生より命中率が低いだろう。

NERVの職員の大半は使徒との実戦で、長距離攻撃で威力のあるバレットガンは有効な武器になるだろうと考えていたが、信長はそうは思っていなかった。

3週間前の第3使徒戦を見る限り、あまり効き目がないと思っていたのだ。ただ、反射神経が悪いということはやはり、今後、大きな不安材料だ。

しかし、EVAに乗ってわずかな期間で、シンクロ率41.4%という数字はまさに驚異的であった。他のパイロットはEVAを起動させるだけでも長い時間が必要だったのだ。マヤが先輩のリツコに思ったことを口にする。

「しかし、シンジ君よく乗ってくれましたね。」

「人の言うことはおとなしく従う。それが、あの子の処世術じゃないの?」

どうも、リツコの言う通り、そんな感じだな。信長と濃がシンジと同居し始めてから3週間。シンジはどこが気が抜けいていて元気がない。

事前の報告書どおりの感じだった。他人に自分を適当にあわす人間・・・それがシンジなのだろう。

だが、シンジの料理のうまさには驚かされた。妻の濃の料理よりうまいのだ。他にも洗濯、掃除など、シンジは主夫としての能力は天下一品だ。

確かに、前住んでいたところでは、よく家事もやってたそうだが、まさかここまでと は。家に引き取ってよかったと佐藤夫婦は心のそこから思っていた。

「目標をセンターに入れてスイッチ、スイッチ・・・」

シンジが打った弾は、また使徒に当たらず、外れていた。信長は、さっそく今日からシンジに反射神経の訓練を集中的にやらせることに決めた。

その、信長のボールを使った変わった反射神経の訓練が終わったあと、シンジは同じEVAのパイロットのレイと話すことになった。パイロット同士で話し合いをしてみたら?と言う濃の提案だった。

「こんばんわ。碇シンジです。その・・・これからよろしく。」

だが、レイは何も返事をしない。スタスタ歩いてどっかに言ってしまう。実はたった今、レイは指令に呼ばれて急いでいたのだ。

そのままシンジと濃の見えないところまで言ってしまった。後で事情は知った二人だが、それにしても、一言断ってくれればいいのにと、今後のパイロットのコミュニケーションを考えると頭が痛い、濃であった。

「おお、うめえー、うめえー。」

最近、佐藤家では料理当番はすべて、シンジになっていた。洗濯などは濃がやってもできるが、先ほども言ったように、料理はシンジにかなわない。

濃の家事担当は料理以外すべてになっている。ちなみに、信長は何もやっていない。男女平等など程遠い世界から来た人間だから・・・

「今夜はビールはだめですからね、あなた。」

「そんなー。濃〜。」

・・・どうやら、最近は佐藤家でも昔と男女の力関係は逆転し始めているようだ。昔なら二つ返事でビールを差し出しただろう。信長の前世の威厳はどこにいったのだろうか?

くそっ、昔の・・・、俺を怖がって、おどおど酒を運んでくる、こいつの可愛い姿はどこにいったんだ?ああ、日本男児・・・天下統一目前まで行った俺が情けない。

ふふふ、もう、この時代じゃ浮気なんてできないし、権力で脅すことなんてできないわよね。こんないい女、不細工な顔で、もてないあなたに、離婚なんてできるわけないしね。ああいい気味だわ。

シンジはそんな、二人を見て笑っていた。それはシンジが久しぶりに見せた本当の笑顔であった。

シンジの家族関係は元来薄い。父とは母が死んで以来、10年間ほとんど会っていなかったし、預かり先の親戚の家でも、表向きはともかく、裏では邪魔者扱いされていた。

そんな、親戚がシンジを預かった理由は金だ。父ゲンドウから養育費の他にも、莫大な謝礼金が払われていたのである。セカンドインパクト後の混乱した世界で、これは、喉から手が出るほど貴重なものだった。

2004年から、シンジは誕生日の日ケーキでお祝いしてもらっていた。特に2005年くらいまでは、砂糖すらめったに手に入れることができない時代だったにもかかわらずである。

しかし、祝っているはずの親戚の目に笑みはなかった。あるのは偽りの笑顔だけだった。

「これが、タンジョウビ・・・」

子供のシンジでもすぐに気づいた。先生が本当に自分を祝っていないことに。先生と言うのは親戚のおじさんのこと。この呼び方からしても彼らが、精神的にも本当の親子に程遠いのは目に見えていた。

その後、シンジは先生に対して、表面だけよい子をして、適当に付き合っていた。そして、それはだんだん先生だけでなく、友達に対してもそういう付き合いになっていった。

加えて、シンジは自分の趣味と言うものがまったくなかった。子供の頃、誰でも、スポーツ選手になってやる!消防士になりたい!と仕事に対して大きな夢を持つものである。しかし、シンジにはそれがなかった。TVゲームや他の遊びにもまったく、興味がなかった。

そういったことが、シンジを内向的で人との関わりが下手で、勉強の成績は普通で、とくに長所もない、目立たない子にさせた。

これから、使徒という、未知の恐ろしい敵と立ち向かっていかなければならないのに、こんなひ弱な性格では困る。彼は今まさに、弱冠14歳にして、人生最大のピンチを迎えている。

「あの信長さん。使徒って何なんですか?また来るんですか?やっぱり僕が出撃するんですよね?」

そう言えば、シンジにはまだ大まかにしか、使徒のことを話していなかった。信長が詳しく説明する。もっとも使徒のことはほとんど、わかっておらず、”詳しく"とは、とても言えないかもしれないが。

「2000年、セカンドインパクトが起きたのは、シンジも知ってると思う。一般には南極に隕石が落ちたことになっているが、本当は南極で、未知の生物”使徒”を探査中、原因不明の大爆発が起きたのが本当のセカンドインパクトの原因なんだ。」

「・・・なのに、どうして、教科書では隕石が落ちたって。」

「さあな。なんで、上が隠してるのかは俺も知らん。ただ、俺たちの仕事はあのセカンドインパクトを再び起きるのを防ぐということさ。」

そう、なぜ使徒のことをNERVが隠しているのか信長にもよくわからないのだ。あんな物隠そうにも、隠しきれる物ではなく、先の第3使徒戦の事も、戦略自衛隊はおろか、民間人にまで知られてしまっている。

むしろ、NERVが使徒を倒す英雄として名乗り出れば、NERVにとって好都合ではないのだろうか。

「ところで、この前の戦いのことなんだが、シンジはどこまで、おぼえてるんだ?」

「・・・使徒に走っていって、その後、自分の左腕が失ったような気がしたとこまでは覚えてますけど・・・。その後は記憶ないです。気づいたら、NERVの皆さんが大喜びで・・・、使徒も倒してたようです。その時は、猛烈に疲れが出て、気分が悪くて・・・。」

やはり、あれはリツコの言ってた通り、暴走であったのだろうか?と言う事は碇ゲンドウは、まさかそれを狙っていたのだろうか?暴走が勝算・・・。常識破りの発想だからこそ、信長は納得できた。

碇ゲンドウは10中8,9は、暴走を狙ったのだろうと。碇ゲンドウ・・・俺が思っていた以上の才能の持ち主なのかもしれない。そもそも、あのスーパーコンピューターMAGIの所有者は、事実上ゲンドウなのだ。

もちろん、直接自分が操る事はできないだろうが、部下に命令さえ出せば、すぐに動かすことができる。

MAGIから得られる情報量はケタ外れである。情報こそ、組織が生き残る重要な要素である事は、信長は、昔の経験から、骨の先まで知っていた。しかも、MAGIの価値はそれだけではない。

敵の組織の情報を操作することすら可能なのだ。おまけに、情報操作はゲンドウの18番だった。

NERVはスパイ活動などを行なっている、諜報部の能力はいまいちなのだが・・・、コンピューターを操る情報部と技術部は凄腕ぞろいである。赤木リツコ、伊吹マヤ、青葉シゲル、日向マコト・・・全員まだ非常に若くて、将来性も豊かである。

恐らく、ゲンドウは対人間戦についての備えは何もしていない。そんな余裕はないと、判断したのだろう。組織のバランスなど気にせず、使徒戦で重要な要素だけに、すべての力をそそぎこむ。

斬新で非常に大胆な発想だった。自分によく似ているのかもしれない。

しかも、ゲンドウだけでは、威厳がありすぎ人を恐れさてしまうが、隣に、穏健な冬月を常に従えてる事で、それをうまく緩和しているのだ。これは、自分にはできなかった事である。

自分は常に人を恐れさせるばかりで、それがあの本能寺の変につながってしまったのだろう。自分もゲンドウのようにしておけば、あるいはそれを防げたかも知れない。天下統一を目前にして、なんとも悔やまれる。

これほどの力を持つ男・・・。ゲンドウは何か、前代未聞の恐るべき計画を立てている。それが、信長の勘だった。


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