第6話「新清洲同盟」

シンジが第3新東京市に来てから約3週間。今日から地元の中学校に転校する事になった。今日だけは転校初日、色々説明があると言う事で保護者の濃が車で送って行く。

シンジの顔には、新しい学校へのうれしさも、戸惑いも特にないように見える。いつも通りの表情だった。報告書を見てみると濃は、戸惑ってオドオドするのかと思ったが・・・。

一度だけとはいえ、あんな化け物と戦っているのだから、こんなことでは緊張しないのかもしれない。

まず、職員室に入って、校長先生から簡単に学校の説明を受ける。続いて濃が改めて、シンジがNERVに入っているため、学校側にいろいろな細かい申し出を確認してもらう。

その頃、早速、転校生の情報を仕入れた二年A組の相田ケンスケが、そのことをクラス中に伝えていた。転校生が、ごく普通の男子生徒と聞いて、特に男子陣はがっかりした様子だ。

しかし、同時に、使徒と言う化け物の襲来で、疎開が相次いでいるこの時期に転校して来るのは絶対おかしい。もしかして、あのロボット(EVA)のパイロットではないか?との自分の推測を披露する。

このうわさは瞬く間に学校全体に広がった。もっとも全学年で150人くらいしかいない、小さな学校であるのだが。受験を控えていない一年生や二年生は特に疎開する人が多く、今や1クラスしかない。

一人だけ、そんな世間の噂には聞く耳持たず、本を読みつづけている青髪の少女がいた。ファーストチルドレン綾波レイ。

まだ、先日の使徒戦での傷が言えておらず、右手は骨折しており、左手だけでページをめくっている。

彼女は、いつも、このようにマイペースで本を読みつづけており、美少女なのだが、クラスの男子生徒からは近寄りがたく、全員、彼女と恋人になるのはあきらめている。

彼女はそんな目で自分を男子生徒が見ているのは知らないし、知ったところで、別に何も変化せず、マイペースに本を読みつづけるだけだろう。

あまりに無愛想で、よく欠席もすることから教師には疎まれているが、成績は抜群、物静かで周りに迷惑もかけていないので、特に怒る教師はいない。

ガラガラ、話題の転校生碇シンジと担任の老教師が、クラスの中に入ってくる。

「碇シンジです。よろしくお願いします。」

そっけない、シンジの自己紹介。別にプレイボーイと言うわけでもなく、女子生徒もがっかりである。そのまま一時間目の授業。数学の時間のはずだが、いつの間にやらセカンドインパクトの話しになっている。

この老教師も、あのセカンドインパクトの生き残りである。思い出したくないであろう、つらい自分の経験まで話し、必死に訴えようとしているが・・・生徒は聞いちゃいない。

老教師は嘘を話しているつもりは無いだろう・・・。しかし老教師は政府の情報にだまされていて、セカンドインパクトの真の原因を間違えて教えてしまっていた。

「あのロボットのパイロットってのは本当 YES/NO」

シンジのノートパソコンにメールが届いた。どうも、生徒は他事をして楽しんでいるようだ。苦笑しながら返事を返す。

「YES」

教室中が大騒ぎなった。委員長であるヒカリが注意するが、誰も聞く耳持たず、老教師は誰も聞いていない話しを続けている。

しきりにエヴァと使徒の事を聞く、クラスメイト達。特にケンスケ一言たりとも聞き逃さないよう細心の注意を払い耳を傾けている。あの老教師の話しも、このくらいまじめに聞いてくれればいいのだが・・・。

「そう言う事は、悪いけど全部機密事項でね。話せないよ。」

しかしシンジは、”機密事項”一点張りで、しつこく何回も聞いていた生徒たちも、諦めてしまった。

「で、依頼の件できそうか酒井。金は一億用意してるぞ。」

その頃、信長はなんとしてもゲンドウらの情報を集めようと四苦八苦していた。戦略自衛隊にいた頃の知り合いなどをフル動員して、金もバンバン使う覚悟だ。

「断らせていただきます。小手調べはしたんですが、まったく私の手には負えません。・・・信長さん、どうです。実は知り合いにとんでもない諜報能力を持つ男がいるんですが・・・その人に依頼してみては。」

「ほう、誰だそれは?」

「加持リョウジ・・・。ドイツのNERV支部の所属です。実はコイツ、我が自衛隊のスパイでしてね。文句無く使える男ですよ。」

「おいおい、今、俺はNERVに所属しているんだぞ。」

「信長さんを信用してますからね。で、どうします依頼しますか?金は今まで通りになりますが・・・。」

「よし、頼んだ。後、その男に俺の携帯に連絡をくれるよう言っていくれ。」

加持リョウジか・・・。NERVの人物ならば、ここで履歴を調べられるはずだ。スパイと言うからには、当然データが適当に書きかえられている可能性も大だが・・・とりあえず検索してみる事にした。

ドイツNERV支部所属。加持リョウジ。独身、30歳。K大学卒業後、三年間NERVで諜報特殊訓練をする。成績優秀の為、セカンドチルドレン、惣流アスカ・ラングレーの警備係となり、現在もその任の最中である。

K大学って、確か葛城と赤木も・・・。検索、検索・・・。やっぱり間違いないな、少し話しを聞いてみるか。さっそく、作戦司令室に向かう信長。

「というわけなんで、加持リョウジって人の事を教えて欲しいんだが。」

加持のことを突然聞く理由は、適当にごまかして、ミサトに尋ねる信長。

「ミサトの恋人よ。大学サボって、ずーっと一週間、お熱い夜を過ごしてた彼よ。」

リツコが横から口出ししてきた。・・・さすがに驚く信長。まさか、ミサトの恋人だったとは。しかし、1週間とは・・・、加持リョウジ恐るべし男である。

「元よ。あんなのと、付き合ってたのが人生最大の汚点だわ。」

「で、どうだったんだリツコ、能力の方は。」

「大学卒業してから、ほとんど会ってないから、よく知らないわ。大学の成績じゃ、けっこう優秀だったみたいだけど。」

学歴だけでは、本当に優秀かどうかよくわからない。あの酒井が見込んだからには相当な男なのだろうが。すぐに、本人から電話がかかってきた。

「もしもし。信長さんですか。依頼を受けた、加持リョウジです。」

「おう、あんたが加持リョウジか。で、どうだ依頼の件は?」

「承知しました。金は前払い、後払い半々ってことでお願いします。まあ金の分は働きますよ。」

「手柄次第では2倍にしてやるぜ。そのかわり、今の言葉忘れるな。」

信長が今、思っているほど加持は金にこだわる男ではない。真実を求め、隠された情報を探る男、それが、加持リョウジだった。ここに、後の歴史を変える出会いが始まった。

それは、信長が、かつて家康と交わした清洲同盟よりもさらに強固なものになっていく。

とんとん、冬月副司令がNERV本部の自分の部屋に訪れた。今はもうすぐ昼休みの時間が終わる頃。こんな時間に冬月が自らなんの用だろうか。

「今から、君にドイツに言ってもらいたい。実は、ドイツのNERV支部のセカンドチルドレンの引渡しの件がうまくいってないんだ。」

そう、実はドイツ支部は、NERVの支部とは名前ばかりで・・・、本当のところはまったくの別組織と言って過言ではないのである。NERV本部とは、利害関係も対立しており、仲が悪い。

信長は戦略自衛隊時代からの交友関係も広く、なにより弁説が立つ男だ。そのため、冬月は彼にこの仕事を押し付けたのである。副司令である自分が自ら来たのは信長の機嫌を取る為だ。

自分の部下とはいえ、わずか四年で少将の位になり、事実上、元帥(最高司令官)の片腕だった男である。再び敵に回ったら、あの計画の大きな障害になるのは間違いない。

上司の命令だ。別に反対する理由もないので、すぐに信長は承知すると、さっそく濃に連絡を入れ、1時間後にはNERV本部専用機でドイツに向かっていた。

だが、そのさらに1時間後、すでに空の上の人になっていた、信長とパイロットに冬月から大慌てで連絡があった。

「第四使徒が現れた。至急本部に戻ってきてくれ。」

今からでは、間に合うかどうか微妙な情勢だ。とにかく大急ぎでNERV本部に戻る。第四使徒戦がまもなく始まろうとしていた。


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