第15話「足音」

広い部屋で、二人っきりで話しをしている男たちがいた。

「冬月、サードマイナー(碇シンスケ)の件はどうなった?」

「ああ、お前に言われたとおり調査したが、ゼーレにはなんの関係もなかったようだ。結局どこの組織の物かはわからなかったが、ゼーレ以外にクローンの技術を持っている組織はすべてつぶした。」

「そうか、これでサードマイナーをいつでも始末できるな。」

「そうだな。しかし碇、利用できるものは利用するんだろ?」

「ああ、むろんだ。」

シンスケは、もはやいつ殺されてもおかしくない状態であった。しかし、このことをシンスケはまだ知らない。


シンジ、アスカ、ミサト、シンスケ、レイ、加持の6人が葛城家で夕食を取っていた。

「あんた、この前も家来たんですって?よっぽど暇なのね。」

「ああ、暇で給料けっこうもらえるんだから、我ながらホントいい身分だよ。」

確かに、実際のところ加持は裏のスパイ活動さえしなければ、暇と言うほどではないが、それほど忙しくはないのである。

と言うか、加持の本来の仕事はアスカの護衛なので、ここにいること自体が仕事とも言える。

「でもシンちゃんとレイ、本当にラブラブね。・・・レイ、あなた短期間で性格変わり過ぎだわ。・・・まっこれも愛の力か。」

「明日、芦ノ湖で、デートだって、シンジ君もやるね。」

「ま、私はあんた達がどう好きあっても関係ないけど・・・シンジ、パイロットとして規律を乱す行動はしないようにね。」

毎度、真っ赤な紅葉となるシンジとレイ。シンスケはシンジへの嫉妬心を自分でも、はっきりわかるようになった。

(自分で、自分に嫉妬するなんて、何を考えているんだ、僕は・・・)

「シンスケ君、一緒に風呂入らないか?二人で話したいこともあるしね。」

「ええ、わかりました。」

「加持さん、ふ、二人って・・・」

「おいおい、変なこと考えるなよ、アスカ。」


風呂の中に入っている加持とシンスケ。風呂はけっこう大きく、三人ぐらいなら同時に入ることができる。

「あの土産、驚いたよ。で、俺のほうからは何をすれば、あの土産をくれるんだい?まさか本当に松代の土産って事はないだろう。」

「まあ、そうですけどね・・・。」

「料金は、三重スパイを止めるってことで、どうですか? 次の使徒と、セカンドインパクトの真相についてお話ししますよ。」

「俺のスパイのことも知ってるのか・・・。ただ、俺はセカンドインパクトの真相は大体知ってるからな。シンスケ君の過去を教えてくれるってのでどうだ?」

「わかりました。次の使徒はですね、空から落ちてくるんですよ。その使徒をエヴァ3隊で受け止めて、殲滅します。」

「MAGIですと、成功確率は0,01%以下という計算結果になるでしょうが・・・、僕の勘じゃ、まあ75%くらいの確率で成功すると思いますよ。ぼくの過去っていうか・・、正体は、未来から来た碇シンジですよ。」

・・・流れるような、時の沈黙。

「未来から来た?」

「ええ。まあ信じてくれっていっても、ちょっと無理だとは思いますが・・・。一番信じられなかったのは、僕自身ですから。」

「どうやって未来から?」

「わかりません。ただ、サードインパクトが起こってしまって・・・、アスカも死んで、僕も気を失ったら、第3新東京市のホームで、この時代の僕に会ったんですよ。」

「俺も時間がない。細かいことは、別の機会とするとして、未来がどうなったのか、大筋で話してくれないか?」

「第15使徒の精神攻撃で、アスカがダメになってしまって、第16使徒で綾波が死にました。カオル君・・・、使徒だと最後に知りましたけど・・・、友人だった彼を殺したことで、僕も精神的にまいってしまったんです。」

「・・・そうしたら数ヶ月後、自衛隊とエヴァの量産器が攻めてきて、僕がEVAで出撃すると、僕をよりしろにして、サードインパクトが起こったんです。」

「まだ、信じられないが・・・。まあ、詳しいことを聞く機会をまた用意するから、その時は、話してくれるな?」

「ええ。それと未来であなたは殺されましたから・・・・。くれぐれも危ないことはしないで下さいよ。」

「わかった。」

以後、加持はスパイ活動を休止し、本来の仕事に専念することとなった。


(シンジのやつ、芦ノ湖で綾波とデートか、う、うらやましい。くそー、俺がレイを貰っとくべきたったのか、いかん、いかん。俺はこの時代の人間じゃないんだ。それに俺にそんな資格あるわけないよな。レイのこと・・・2人目も3人目も見殺しにしてしまったのに・・・。)

レイとシンジのデートは静かだった。二人とも何も離せないのである。今はただ芦ノ湖のロープウエィーに乗っている。

(せっかく綾波とデートなのに、この沈黙じゃ・・・。何か、何か、話さないと。)

しかし、シンジの口は開かなかった。レイは柔和な顔でシンジを見守っていた。

その後、二人は山頂でお弁当を食べ、観光船にのって、始めてのデートの時間を過ごすのであった。

(ああ、綾波はやっぱりかわいい。うう、たまらない。このまま僕のお嫁さんにしたい。)

シンジはレイと将来のビジョンまで考えているようだ。温泉街によった時は思わず男の子の想像をしてしまう。

(綾波のあの白い肌・・・僕と一緒に・・・・・・・はっ、何を考えてるんだ僕は、別に綾波の体が目的なわけじゃ・・・、でもうううああ、妄想よ静まってくれ・・・。)

シンジ君の妄想は一向に静まることはなかった。帰りのバスでレイは思う。

(今日のデートとっても嬉しかった。またしたい。でも私は人間じゃない・・・、私はあの実験に参加しなくてはいけない・・・、これからはもっと忙しくなる・・・、学校にもいけない、シンジ君にも会えない・・・。私、私、どうしたらいいの?)

レイには、その答えは見つからなかった。バス停でシンジと別れる・・・。涙がうっすらと、こぼれ出していた。

「どうしたの、綾波、僕とのデートつまらなかった?」

「そんなこと、そんなことないわ。でも私は人間じゃ・・・」

泣き出して、逃げてしまうレイ。シンジの心は天国から地獄へと転落していった。

(人間じゃ・・・、もしかして、人間じゃないって言うつもりだったの綾波・・・。ははは、なにバカなこと考えてるんだ。最近疲れてるだな僕も。でも、本当にどうしたんだろう、綾波?)


数日後、シンスケ・レイ・アスカが同時にシンクロテストを行なっていた。シンジはすでにテストを終了し、シンクロ率は67%だった。

「ファーストチルドレン、シンクロ率42%」 「セカンドチルドレン、シンクロ率68%」 「サードマイナー、シンクロ率60%」

4人の中でシンジのシンクロ率の伸びが最もよい。シンスケのシンクロ率上昇は少しだけ鈍いようである。気になるのはレイで、今日に限って少し悪い。

(シンジ君が本当に未来から来たのなら、もっとシンクロ率は高くてもおかしくないはずだ・・・。まさか、シンクロ率をコントロールしてるのか?)

NERVの誰もが、パイロットの中で、シンスケの実力が一番低いと考えている中、事実を知る加持だけは別の考えを持つようになってきていた。

(私が、シンジとあと一%差、このままでは抜かれてしまうわ・・・。いえ、落ち着くのよアスカ。今日はたまたまシンジの調子がよかっただけよ。そうよ、ちっさいころから訓練してるあたしが、ついこの間まで素人だったあいつに勝てるわけないわ。大丈夫よ私は。)

アスカは、じわりじわりと迫り来るシンジの足音におびえていた。

(アスカのやつ、このままじゃ、歴史通りになっちまう。なんとかしないと・・・。でも、レイまでシンクロ率が低いのはなぜだ?)


後書き

今回はシンジとレイのデートでした。でもなんだか暗い展開に。もうちょっと明るくなる予定だったような気がするのだが・・・。最近、このSS、TV編にないオリジナルストーリー(←と書けば聞こえはいいが・・・)の影響で使徒戦の進みが遅くなってるよな。シンスケの正体明かすの早過ぎるし・・・。

次回予告

「レイの調子がおかしい・・・。そんな中、第10使徒が出現する。果たして無事第10使徒を殲滅できるのか?アスカはどうなるのか?次回エヴァ2回目<秘密>お楽しみにね。


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